しかし、このロジックは誤っている。なぜなら、黒田総裁は足元のインフレ率自体には関心がないからだ。インフレ率は重要ではないのである。それはありえない、と彼らは反論するだろう。日銀が物価を重要でないなどと言うことはありえない、と。日銀は物価の安定を目指し、それにより日本経済の健全な発展を実現する。それが日銀の使命である。しかし、追加緩和には物価は関係がない。そこがポイントだ。
追加緩和の目的は日本経済のため
追加緩和は何のためにやるのか。日本経済のためである。日本経済にマイナスになることはやらない。物価のためにすべてを投げ売って金融政策をやるのではない。日本経済のためになるからこそ、金融緩和をするのであり、日本経済のために物価を考えるのである。
現状では、追加緩和は日本経済にとって明らかにマイナスだ。日銀が追加緩和をしない理由はそれに尽きる。官邸が緩和をそれほど望まなくなったからだとか、そんなつまらない理由ではない。日本経済のためによくない。それに尽きる。
日本経済は、景気循環からすると悪くない。ここ数年良くなりすぎて、そこからはピークアウトしている。失業率は最低水準で需要不足ではない。それならば景気対策としての緩和はいらない。円安もかなり進んだ。これ以上の円安は、誰にとってもマイナスだ。為替も株も乱高下となって、それに乗じてトレーディングしようとしている人々以外は。
一方で、日銀がすでに国債を買いすぎていて、テク二カルに買うのが難しいから追加緩和はしないというロジックも間違っている。日本経済のために必要であれば、今度こそ、すべてを犠牲にして、金融緩和を拡大するはずだからだ。国債がダメならほかの手段を考えるだけだ。
量的緩和政策という金融政策上のクレージーなイノベーションを生み出したのは、1999年の日銀だった。時間軸政策という将来を縛る政策を編みだしたのも日銀だ。その後それを派手にやったのはFRB議長を務めたバーナンキだが、イノベーションを起こしたのは日銀であり、今後も必要なら新しい政策手段を生み出してくるだろう。
これだけ書いてしまえば、市場関係者から出てくるほかの間違った議論に言及する必要もないが、補足的に2つ述べよう。
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