元イタリアンシェフ「コロナ禍で1500万借金」から《万博出店》へ。「家賃2万円」おんぼろとんかつ店が月商2700万円に急成長した「振り幅戦略」

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野口さん自身、試作を重ねるなかで何度か「天井を見上げる」瞬間があったという。熟練していけば、そのとんかつを揚げられる確率が上がる。そうすれば、客は「ボロアパートという底辺からの振り幅」に心揺さぶられ、感動するに違いないという確信があった。

実際、オープンして数カ月後にある常連客は、「とんかつの概念が覆った。肉が歯に抵抗せず、舌の上でほどけていく。これはもはやとんかつではなく、新しい料理だ」と興奮気味に語ったそうだ。野口さんが目指したおいしさが届いた瞬間だった。

中津時代の店
中津時代の店。8坪と狭く、5席しかないカウンターには、美しい一枚板が使われていた。家賃は2万円。途中で3万円に上がり、最後は2部屋借りていた(写真提供:とんかつ乃ぐち)

イタリアンがとんかつに「のまれた」

2021年11月、ついにオープンした『とんかつ乃ぐち』。最初は、昼は誰でも入れるとんかつ定食の店、夜は予約のみのイタリアンというスタイルだった。この形式にしたのには、野口さんなりの考えがある。

倒産したイタリアン時代の顧客200人が、月1回訪れ、夜に5000円、1万円のコースを食べてくれれば売り上げは成り立つ。そう計算していたのだ。

ところが、オープンして数カ月経つと、不測の事態が起こった。

昼にとんかつを食べて、「面白かったから夜も行ってみたい」と訪れる客が増えていったのだ。夜はとんかつを用意していなかったが、あまりに「食べたい」と言われ、出さざるをえなくなっていった。

「夜のイタリアンは収益的に守りたい領域でしたが、とんかつに完全にのまれていったんです。でも僕の中には、これまでイタリアンシェフとしてやってきた自負もあります。最後には、『前菜だけはイタリアンにさせてほしい』とお願いして、それだけは作らせていただいていました」

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