なぜ要介護者が"カジノ"でみるみる元気に? 《常識破りのデイサービス》アメリカ視察で一発奮起した社長が変える「日本の介護」
認知症予防のため、多くのデイ施設が行っている足し算・引き算などの「計算ドリル」も廃止した。「こんなことをやらせてバカにしてるのか?」と怒り出す人や、逆に計算がおぼつかなくて落ち込む人もいたからだ。
「それって誰も幸せにならないと思ったので、潔くなくそうと。その代わりに導入したのが、施設内通貨の“ベガス”なんです」(森さん)
ストレッチに参加したり、ゲームに勝ったりするとその分のベガス紙幣が支払われ、次のゲームに使うことができる。それによって、自然と遊びの中で収支の計算をする“仕掛け”を作ったという。

「そもそもなぜ、介護が必要になると計算力が衰えてしまうかというと、自分で買い物に行かなくなるなど、生活の中でお金を使う機会が減ってしまうから。
だからこそ、あえて“お金”をテーマに扱おうと思ったんです。本物のお金じゃなくても皆さんお札が増えると嬉しいみたいで、どんどん貯めて億万長者になっている方もいらっしゃいます(笑)」(森さん)

計算の機会はゲームの中にも。ディーラーとプレイヤーが点数を競い合う「ブラックジャック」では四則計算をするほか、麻雀でも点数計算をするなど、数字を扱う場面が多々ある。それに、どのゲームも頭と手先を使うため、脳機能の回復・向上に大いに役立つ。
同施設のプログラムは、すべて「遊び」のように見えて、実は「機能訓練」を目的に綿密に設計されているのも特長の一つだ。
「税金を遊びに使うな」との批判も
開業当初は、「税金を遊びに使うとは何事か」などの批判も多かった。
「税金を使うからこそ、僕らは結果を出さなくちゃいけない。その想いを常にスタッフと共有しながら、ご利用者の方々、一人ひとりと向き合ってきました」(森さん)
その結果は数字にも表れている。利用者の要介護度の維持・改善率が2年後で約82%と、非常に高く、要介護度5から3、あるいは4から3など介護度が下がる人が続出している。
通い始めて6年目になる鈴木健之さん(84歳)もその一人。要介護度が4から3に下がり、経過も順調だという。
「初めて見学に来たときは驚いたね。こんな場所があるのかって。もともとパチンコも麻雀も好きだったから、ここなら楽しめるかもと思った。家に居たときより体が動くようになったし、一日がうんと短く感じるようになったよ」と、頬をゆるませる。今は週2日のラスベガス通いが日々の楽しみになっているそうだ。

「介護の現場を見てきて感じることですが、特に高齢者は気力がなくなるとあっという間に食欲がなくなり、足腰も弱り、それによって介護度が上がってしまうケースも少なくありません。逆に気力を取り戻せば、食欲も足腰の力もみるみる湧いてくる。そうして車椅子から歩行ができるようになった方を数多く見てきました。
気力を取り戻すきっかけは、その人にとっての生きがいや楽しみを見つけること。僕らは病気を治すことはできませんが、生きがいや楽しみを提供することで元気になっていただくのが使命だと思っています」(森さん)
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