「日本は水が豊富な国だ」と思い込んでいる人が知らない"真実"、地下水の《見える化》が秘める大きな意味

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その際にカギとなるのが、「ウォータースチュワードシップ」という考え方だ。これは、企業が単に水を管理するのではなく、「共有資源としての水を、地域社会と協調して持続可能に保つ責任を担う」姿勢を指す。

世界の先進企業では、水の使用量を減らすだけでなく、「使用量以上の水を地域に還元する」ウォーターポジティブという取り組みも始まっている。Water Scapeは、こうした国際的潮流とも接続しながら、日本の水利用にも新しい視座をもたらそうとしている。地下水をただの物理的資源ではなく、「見えないインフラ」として捉え直すことで、企業活動の根本にある自然との関係性を問い直している。

「式年遷宮」が示唆するサステナブルな資源管理

このような「水との新しい関係性の構築」には、テクノロジーだけでは不十分。必要なのは、人の理解と経験の継承である。

例えば伊勢神宮では、20年ごとに社殿を建て替える「式年遷宮」が1300年以上続いている。これは単なる建築物の更新ではない。職人の技術や素材の選定、森の手入れ、信仰の心までを世代ごとに受け継ぐ「知のサイクル」である。サステナブルな資源管理とは、技術とともに、文化と人を育てていく営みでもあるのだ。

川﨑氏も次のように語る。「流域全体で水のことを考えるには、1社だけでできることには限界があります。企業、自治体、住民、そして水を扱う専門家が、互いに知識や経験を共有できるような“共通言語”が必要なのです」。

地下水の「見える化」とは、単なる数字やモニタリングの話ではない。それは、企業が地域社会との接点を取り戻し、流域という広がりの中で、未来の資源管理をともに築くための第一歩なのだ。

橋本 淳司 水ジャーナリスト

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はしもとじゅんじ / Junji Hashimoto

武蔵野大学客員教授。アクアスフィア・水教育研究所代表。Yahoo!ニュース個人オーサーワード2019。国内外の水問題と解決方法を取材。自治体・学校・企業・NPO・NGOと連携しながら、水リテラシーの普及活動(国や自治体への政策提言やサポート、子どもや市民を対象とする講演活動、啓発活動のプロデュース)を行う。近著に『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る 水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水がなくなる日』(産業編集センター)など。

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