Water Scapeの地下水診断は、すでに複数の現場で導入されており、具体的な成果を上げつつある。なかには「使っていた井戸の負荷が高いことが明らかになった」「地下水のポテンシャルを初めて科学的に把握できた」といった声もある。
ある大手自動車メーカーは、既存の井戸の揚水能力が徐々に低下しており、中長期的な水確保への不安を抱えていた。Water Scapeの診断によって、地下水の使用状況と周辺環境の変化が科学的に可視化され、井戸設備管理の課題が明らかになった。
この結果を基に、同社は井戸の維持管理計画を見直すとともに、節水設備への投資判断を経営層に説明する根拠を得ることができた。「水サステナビリティー」の観点が、CSR(企業の社会的責任)に加え、事業継続に直結する要素として再認識された。
中堅規模の飲料メーカーでは、自社が使っている地下水についての知見が乏しく、増産に向けた意思決定に必要な判断材料が不足していた。Water Scapeの調査により、地域の水収支や地質構造から、現在の利用量に対して十分な水量余力があることが確認された。
同時に、気候変動に伴う降雪量の減少傾向が判明し、将来的なリスクに備えたモニタリング体制の強化も提案された。こうした科学的知見が、経営戦略と水マネジメントをつなぐ意思決定の基盤となっている。
企業と社会に問われる新たな責任
地下水を“点”として捉えるのではなく、それがどこから来て、どこへ流れていくのか──。そうした視点の広がりこそが、いま企業に求められている。
もともと森林水文学の研究者であった川﨑氏が強調するのは、「流域」という概念だ。流域とは、雨が降り注ぎ、地下を通り、川となって流れていく、一連の水の空間を指す。
企業が使っている地下水も、決してその敷地内で完結しているわけではない。山の涵養域から湧き出し、地下を通じて移動し、最終的には下流域の自然や人々の生活とつながっている。
つまり企業が地下水を使うということは、その流域全体の水循環の一部を引き受けるという意味でもある。「自社だけがよければよい」という考え方はもはや通用せず、地域全体の水バランスを踏まえた対応が不可欠となる。
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