「母が施設に入ってから4年間は『しょっちゅう来てもらって申し訳ないな』と母が言っていました。私も『こんなに母の顔を見たこともなかったな』と思うくらいに密な時間を母と過ごしました。その頃は私も何かを強く言われることもありませんでしたし、母が私に頭を下げることなんてこれまで一切ありませんでしたから」

親の死後に子どもが抱える「後悔」
最後に姉は少しの後悔を口にした。
「もう少し頻繁にここに来て、もっと母の様子を見て、自分にできることを積み重ねていったら、ここまでにはならなかったと思います。全部できたとは思いませんが、少しずつでもできたのかなと」

生前は折り合いが悪く距離を置いていても、いざ亡くなると急に「今までのわだかまりは何だったのだろう」と、故人となった親に寄り添いたくなる気持ちが生まれることがある。
一見、悪いことではなさそうだが、文直氏はこの感情に複雑な気持ちを抱いている。
「私の祖母が亡くなったとき、母が『もっと会っておけばよかった』と言い、口論になったことがあります。あれだけ避けていたのに、亡くなった途端にそう言うのは、自分を美化しているように思えたからです。故人のことを悪く言うと、自分がろくでもない人間のように思えてくるし、周りにもそう映ります。だったら、生前から後悔のないようにしておけばいい、と」
残された子どもは過去を省みて思い直すことができても、親は子どもへのわだかまりを抱えたまま亡くなっている。


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