(3)感情の変化の軌跡
不安から期待へ。孤独から充実へ。どう気持ちが変わっていくのか、そのキッカケは何だったのか?
「落ち込んでるときに山田所長が居酒屋に連れて行ってくれたよ。その居酒屋で山田所長は何も言わず、ずっと俺の愚痴を聞いてくれた。そして最後に所長がこう言ったんだ。『本当に、お疲れさん』って。それだけでも、メチャクチャ嬉しかった。あのあと、俺は一切愚痴を言わなくなった」
こういったエピソードトークが、聞き手に疑似体験させるのだ。
3つの要素すべてを織り交ぜなくてもいい。1つだけでも十分だ。データの羅列では伝わらない「実感」が生まれる。感覚的なタイプであれば、相手の心に火がつくだろう。前向きな気持ちが芽生えるのだ。
伝える場所も重要だ。会議室での事務的な通達や、パワーポイントを使った説明ではかえって逆効果のときもある。
場所はリラックスできるところがよい。たとえば、夕方のカフェ。あるいは、仕事終わりの居酒屋。「実は君に相談があってさ」、そんな切り出しで、まずは対話から始める。一方的な通達ではなく、一緒に未来を考える時間にする。
環境が変われば、受け止め方も変わるものだ。無機質な会議室では身構えてしまう人も多い。「息苦しさ」を覚えるような環境、話し方では、相手の心をオープンにすることは難しいだろう。
失った信頼は取り戻せない
結局、部下は退職を選んだ。
「会社は自分のことを理解していない」
「駒のように扱われている」
そんな不信感は、一度芽生えると消えない。どんなに引き留めても、心は離れてしまった。
この失敗から学ぶべきことは明確だ。
相手のタイプを見極める。論理派か、感覚派か。データで動くか、ストーリーで動くか。それを理解せずに、自分の得意な方法で押し通してはいけない。
相手視点で話すとは、相手の受け取り方を想像することだ。どんな言葉が心に響くか。どんな伝え方なら前向きになれるか。それを考え抜くことだ。
私は異動、転勤は、企業にとって必要な仕組みだと考えている。ゼロにはできない。しかし伝え方を間違えれば、優秀な人材を失う。
特に近年は、丁寧にコミュニケーションをとらないといけない時代となった。だからこそ上司たちには、相手に合わせた話し方改革が、これからは求められているのだ。
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