【追悼】千玄室氏(享年102)、稀代の「行動派家元」を生んだ"特攻隊"そして"同志社"という2つの原体験
同じ頃、同志社中学の教育を受けた人物として、もう1人の巨星がいる。1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏である。
旧制京都一中(現・京都府立洛北高校)の入試に失敗し、神戸で1年浪人生活を送った後、旧制同志社中学(現・同志社中・高校)に入学した。江崎氏が1938年入学で、千氏の1939年入学と同時期にあたるため、両者は同じ頃に在学していた。
江崎氏は、同志社中学で「キリスト教に基づくアメリカ文化という新しい世界にさらされたことが、視野を広げるきっかけになった」と述べている。「私は私立と国立の両方で学びました。それぞれすばらしいところはたくさんありますが、国立より私学のほうが、愛校心が強いですね。同志社はいい学校でした」とも語っていた。
江崎氏は千氏とまったく異なる分野に進むが、その後は飛び級で旧制第三高校(京都、京都大学の前身の1つ)を経て東京帝国大学(現・東京大学)理学部に進学した。そして、ソニーなどを経て渡米し、IBMで活躍する。帰国後は筑波大学学長に就任した。
千氏との共通点は、国際的に知られるその道の第一人者になったことだ。江崎氏は現在100歳である。両氏とも「人生オリンピック」のゴールドメダリストといえよう。
102歳の長寿を可能にした3つの秘訣
千氏が102歳という驚くべき長寿をまっとうし、生涯現役を貫いたことは、多くの人々を驚かせ、行く先々で健康の秘訣を尋ねられた。驚異的な身体能力と精神の若さは、日々の習慣に裏打ちされていた。例えば、102歳になっても1時間半もの講演を立ちっぱなしで行う姿は、強い体力と気力を物語っていた。
千氏が長寿の秘訣として必ず挙げていたのが、毎日欠かさず行う「海軍体操」だった。80年以上も続けてきた日課だ。
特攻隊時代から続くこの体操は、規則正しい動作を通じて全身の血行を促進し、心身を鍛える効果がある。死と隣り合わせの極限状況の中で、肉体的・精神的な苦難を乗り越えるために身につけたこのルーティーンが、晩年まで千の体を支え続けた。
加えて、同志社大学の馬術部で部長を務め、日本馬術連盟会長でもあったことから、馬術も基礎体力をつけるうえで役立ったのではないだろうか。晩年までしっかりとした足腰で活動されていたことから鑑みれば、その効用がうかがえる。
次に、茶道家元ならではの秘訣が「カテキン」である。講演会などでは「私の身体はカテキンでできている」と語るほど、抗酸化作用や抗菌作用があるお茶の効用を確信していた。日本茶になじみのない国を訪問した際には、茶道を伝統文化としてだけではなく、健康効果を強調しながら、その価値を伝えていたという。
(後編に続く)
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