あのドラッカーも驚いたという日本の人材育成法…その根底には100年変わらない"老舗の流儀"がある
創業170年を超える東京・神田にある「やぶそば」は、伝統的な徒弟制度と暖簾分けの精神を承継しています。同社の堀田社長は、新人に最初に教えるべきこととして、こんなことを言われました。
「人間には2つの心がある。2つの喜びともいえる。最初に、そのどちらの喜びを覚えるか。それでその後の職人人生は、大きく変わる」
2つの心(喜び)とは何か?
1つ目の心は、お客様を喜ばせたいと思い、手を抜かず仕事に取り組んだときに得られる「充実感や誇りにつながる喜び」です。これが、仕事を長く続けていくうえで、高い技術を身につけていく源泉となっていきます。すなわち、良心(良知)の喜びでしょう。
2つ目の心は、面倒や手間を避け、楽をして、仕事をやり過ごしたときに感じる「安易な喜び」です。「楽ができた」「うまくごまかせた」という喜び、これは私心(利己心)の快感といえます。
どちらの喜びを最初に覚えるか。それが職業人として、極めて重要な分岐点になる。新入社員の時期に形成されるこの感覚が、後の仕事ぶりに大きな影響を及ぼす、そう言われます。
先に「技術」を覚えてしまうと厄介なことになる
入社早々に楽して仕事ができる体験をした場合、後から「正しい仕事の仕方」を教え直すのは難航するという話は、別の老舗企業でも耳にしました。
「最初に『手を抜かずに仕事をする』という習慣を体にしみ込ませる。技術は後からでいい。先に技術を覚え、後からサボり癖を直そうとしても、なかなか難しい。厄介なのだ」
これは、ある老舗工務店の経営者が話していたことですが、人材育成における本質的な警鐘に思えます。
手抜き癖のある人が、ひと通りの技術を身につけ、家一軒を建てられるようになったとします。しかし、その仕事には、必ずどこかに「手抜き」がある。完成した家は、一見すると、外見は整っていても、どこか締まりのなさや違和感がにじみでる具合になるというのです。
若いときに、どちらの心を育むのか。100年企業は、この点にとても敏感です。
多くの100年企業では、新入に、いきなり多くの仕事を詰め込んだり、不要にスピードを求めたりしません。むしろ、業務を絞り込み、できるだけシンプルな作業を、一つひとつ丁寧に、誠実に行わせていきます。
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