あのドラッカーも驚いたという日本の人材育成法…その根底には100年変わらない"老舗の流儀"がある
現在、100年企業として続く老舗をみれば、前時代的な要素は排除されていることがわかります。実際、取材・研究をしていると、いわゆる「神対応」ともいうべき「おもてなし」は、ハラスメントとは異なる次元から生まれています。
100年企業の価値観のベースは、江戸時代に形成された儒学教育にあります。ここでいう儒学教育は、武士が学んだ「◯◯であるべきだ」といったストイックな行動規範にもなりがちな朱子学とは違います。町人や農民といった庶民が身につけた「心学」と呼ばれたものです。
学術的というより、「どうすれば心安らかに生きていけるのか」「他者と幸せに暮らすにはどうすればよいのか」といった、生活に即した実践的なものでした。
ちなみに、「マネジメントの父」と称されている経営学者ドラッカーは、日本において教育制度が、支配階級や知識人のみならず、庶民にもいきわたっている点に驚きを隠せなかったといいます。
また、第二次世界大戦敗戦後の占領下において、連合国軍最高司令官マッカーサーの要請により来日したアメリカ教育使節団が、日本語のローマ字化を推進しようとした際も、日本人の識字率が極めて高いことが判明し、当初の計画を変更せざるをえなかったといわれています。
あらゆる階層を対象に「人への教育」がいきわたっており、学ぶことが日々の生活に溶け込んでいる点も日本ならではのことでした。
庶民に浸透した心学は、明治期になり陽明学と呼ばれるようになりました。江戸時代には、生活に即したわかりやすい実学として解説した王陽明(中国明代の儒学者/1472-1529)の儒学が庶民の間でもてはやされ、普及していきました。
マニュアルが「おもてなし」の邪魔をすると考える
この心学(陽明学)にみられる人間理解が、100年企業の人材育成に脈々と受け継がれています。
例えば、日本独自の文化として世界から高く評価されている、サービス業における「おもてなし」は、定型化された接客を超えた、相手の立場に立った思いやりのある個別の接客であり、心学的アプローチによる育成が欠かせません。
こうした「おもてなし」は、「マニュアルからは生まれない」と100年企業は、考えます。むしろ、マニュアルを意図的につくらず、社員の感性に委ねることを重視します。心からの思いやりのある対応が、マニュアルが邪魔をして生まれなくなると考えるのです。
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