しかし、臭いがまったくないわけではない。普段スタッフはいくつかの現場を順に回っていくが、孤独死の現場に入った際は事務所へ直帰することになっている。次の現場に遺体の腐敗臭を持ち込んでしまうからだ。
散乱した弁当の空容器や空き缶を、ひたすらゴミ袋に詰めていく。孤独死の現場でよく見られるウジ虫や大型のハエはいないが、前述したように大量のコバエが飛び交っている。
「本来、孤独死の現場では体液が出た遺体にウジ虫が湧いて、孵化し、かなり大きなハエが部屋中飛び回るんですよ。こんな小さいハエではないんです。だから、この部屋にいるハエは遺体ではなく、生ゴミに湧いたハエだと思います」
体液の痕跡が残る布団は大きなビニール袋で何重にもして包む。布団の横には、消防が遺体を搬出する際に脱がせた靴下が、パリパリに乾いた状態で置かれていた。


孤独死の現場から「持ち帰ることができる遺品」
今回の現場は「ゴミ屋敷清掃」「特殊清掃」に加えて「遺品整理」という要素もある。しかし、孤独死の現場では、遺族が持ち帰ることができる遺品は限られてしまうことが一般的だという。
「このへんの服は正直臭いを吸っているので、いくら臭いが少ないとはいえ貿易(海外への輸出)にも出せないですね。コンテナの中に一緒に入れちゃうと全部の荷物に臭いが移ってしまうので廃棄です。だから、遺族の方が『持ち帰りたい』とおっしゃったときは、私から止めてあげることもあるんです」
腐敗臭が染みついた遺品を自宅に持ち込むことは、遺族の生活に影響を及ぼしてしまうからだ。持ち帰った後で、臭いに困る。しかし、持ち帰った手前、捨てられない。そうして苦しむことになるのなら、専門業者である第三者が先に「捨てる」という判断を下してあげるのだ。

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