「虫なんて大っ嫌いなのに…」美術学校卒女性がアース製薬で27年間《100種以上の害虫》を育てることになって知った、苦手な仕事との向き合い方

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その結果、孵化して成体になり、生殖可能になるまでの期間は4カ月に短縮。体重・体長も順調に増え、従来の半分の期間で、健康的な繁殖に成功した。

「ナメクジは、野菜しか食べないと勝手に思い込んでいました。ゴキブリ用の固形飼料も、カビやすいという理由で与えたくなかったんです。でも先入観を捨てて試してみることの大切さを、改めて実感しました」

この生物管理室の成果は有吉さんの後輩社員が学会で発表し、社外から一定の評価を得た。入社して3年が経ち、有吉さんのなかで「虫は嫌い」という感覚は、次第に薄れていった。虫に関する依頼があれば、迷わず引き受けるまでに成長していた。

「会社のなかで、虫に関することだったら有吉が全部引き受けるくらいの気持ちでやってみたら?」

あるとき、上司にそう声をかけられた。この言葉をきっかけに、有吉さんの仕事観は大きく変わった。飼育だけが自分の仕事ではない。パンフレット用の虫の写真、見学時の案内——すべてが仕事なのだと気づいた瞬間だった。有吉さんの視界が、ひとつ広がった。

飼育だけじゃない。伝えることで見えた新しい景色

有吉さんが、初めて飼育以外の業務を任されたのは、飼育室の見学ツアーだった。一般向けではなく、取引先関係者を対象としたもので、それまでは先輩社員が担当していた。入社2年目のある日、「次からは有吉さんが案内してね」と突然任命される。

実際に案内をしてみると、「こちらがハエです」「こちらがゴキブリです」と言うのが精一杯。虫について説明しようとすると頭が真っ白になった。毎日虫を飼育しているにもかかわらず、体系的な知識が身についていないことを痛感した。

たとえば、ゴキブリは世界に4600種以上、日本では66種(※2025年7月23日現在)が確認され、家屋内で見るのは4種ほど。寿命は1〜2年。そうした基本情報すら説明できなかったという。

「これはダメだ、勉強をしないとマズいなと焦りました」

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