「虫なんて大っ嫌いなのに…」美術学校卒女性がアース製薬で27年間《100種以上の害虫》を育てることになって知った、苦手な仕事との向き合い方

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同社がここまで害虫飼育に力を入れる背景には、製品開発の際に虫ごとの薬剤の効果を確かめるために、常に一定条件で管理された一定量の虫が必要とされることにある。(※「害虫」とは、人間や家畜やペットに不快感を与えたり、農作物に食い荒らすなどといった、人間の営みに悪影響を及ぼす虫のことを指す)

その害虫飼育のプロフェッショナルこそが有吉さんであり、いわばアース製薬の虫ケア用品開発において欠かすことができない存在だ。

「私、いまだに虫が好きなわけじゃないんです」

しかし、有吉さんは「虫が大の苦手」と苦笑いする。ゴキブリが視界に入れば身動きがとれなくなり、蚊を叩きつぶした跡を見ることすらできない。

虫嫌いの有吉さんは、なぜ虫と向き合う仕事を選び、27年もキャリアを築けてこられたのだろうか。

虫嫌いが「土日休み」に惹かれて大手企業に入社

アース製薬研究所
まるで海に浮かぶ要塞のような佇まいのアース製薬研究所(筆者撮影)
有吉さん
海の見える会議室でお話を伺った(筆者撮影)

有吉さんは、兵庫県西宮市で生まれ、赤穂市で育った。ひとりっ子で、どちらかというとおとなしい性格。家では本を読んだり、絵を描いたり、ものづくりをしたりして過ごすことを好んだ。

家で過ごすことが多かった有吉さんにとって、虫は身近に潜む恐怖の対象だった。夜中のキッチンでゴキブリを見かけたら、声も出ず、立ちすくむ。腕に蚊がとまって叩いたら、そのつぶした跡ですら気持ち悪くて目を背ける。とにかく虫は、有吉さんにとって怖く、気味の悪い存在だったそう。

「私にとってえたいの知れないもの。飛ぶからいきなり襲いかかってきそうで、見つけたらその場からはやく立ち去ろうと必死でした」

中学、高校と美術部だった有吉さんは、卒業後東京の美術学校に入学。両親の希望もあって赤穂にUターンし、家具販売店で3年、陶芸教室講師として3年働いた。体調不良で退職した後、職探しのために新聞で毎日求人情報をチェックしていた。ある日アース製薬の求人が目にとまった。そこには「生物管理室員募集、昆虫の扱いができる女性の方」と書かれてあった。

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