だから、まず汗を流し努力することを勧めなければいけないのに、最初に知恵を出せと言ってしまっては、社員は机の前に座って、とにかく知恵を出そうとする。当然のことだ。しかしそんな知恵は、社会の波に揉まれていないから、ほんものではない。
「塩の辛さ、砂糖の甘さというものは、何十回、何百回教えられても、ほんとうにはわからんやろ。なめてみて、初めてわかるものや」と松下はよく言っていた。
比較的うまくいっている会社の社長に会ったとき、話してもそう能力のすぐれた人だとは思わないことがある。しかし、その会社の経営はとてもうまくいっている。それに反して、見るからに頭のいい人で、言うことも筋が通っているなと感じる人が社長になっているのに、あまりうまくいっていない会社もたくさんある。
うまくいく会社の社長はコツをつかんでいる
松下は、長く商売をする間に、自分の取引先でそのような例をたくさん見てきた。そしてある講演で、次のように話したことがある。
「うまくいく会社の社長は、そう頭のいいことはなくても、どこかで経営のコツをつかんでいます。一見うかがいしれないものを内に持っていると思います。その持っているものは何かといいますと、塩の味を知っているということです。塩の味はどんなものかという講義は受けておらないけれど、日々味わっているから、塩の味というものはよくわかっている。そういう人だろうと思います」
汗を流し、涙を流し、努力に努力を重ねるうちに、ほんものの知恵が湧いてくる。身についてくる。努力をし、汗のなかから生まれた知恵はほんものである。ほんものの知恵だから、人を説得することができる。動かすことができる。感動させることができる。だから迷わずに、とにかく努力をすることである。
「きみ、奥義を極めた先生から3年間水泳に関する講義を受けたとしても、すぐに泳ぐことはできないやろ。やはり泳ぐには、水につかって、水を飲んで苦しむという過程を経ることが必要やな。そのあとにようやく講義が役にたってくる。そういうもんやで」
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