「がんでも治療受けられず死去」「生命を担保に自白を迫られ…」えん罪だった《大川原化工機事件》や角川歴彦氏の長期勾留、なぜ起こった?

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角川氏の弁護団も訴状で、「逃亡や罪証隠滅の恐れという基準によってではなく、自白か否認かという供述の態度によって勾留の可否を判断するのは禁じるべきだ」と主張している。

裁判官の「初心」を呼び覚ます

角川氏と相嶋氏のもう1つの共通点は、逮捕前後にマスメディアで、本人の認否が報じられたことだ。

角川氏は逮捕前、自宅にマスコミが押し掛けたため代表取材に応じ「やましいところはない」と無実を訴えた。大川原化工機事件では逮捕後、同社がウェブサイトを通じて、法令違反はないという主張を発表した。

両事件では保釈請求があるたびに、検察側がメディア発信を根拠に「証拠隠滅の恐れがある」と反対し、裁判所も保釈請求を棄却した。

弁護団の弘中惇一郎弁護士は「検察側の『ストーリー』に従っていた事件関係者が、メディアを通じて無罪を主張する人を見て『ストーリー』の間違いに気づき、真実を話し始めることはままある。それが困るから反対するのだ」と語った。

弘中氏が弁護人を務めた村木厚子・元厚生労働事務次官の郵便不正事件でも、村木氏が保釈後に記者会見で無実を主張すると、関係者が相次いで法廷で供述を覆した。その結果、捜査機関の作成した供述調書の多くが証拠採用されず、無罪判決につながった。

弘中氏は「報道が罪証隠滅に加担し、保釈の妨げになるという検察側の主張のほうをむしろ問題視すべきではないか。メディアは被疑者・被告の主張をためらわず、そして公平に報じるべきだ」と要望した。

また相嶋氏の長男は、大川原化工機事件の身柄拘束に関する判断を下した裁判官31人の名前を示し、「思考停止に陥って、無実の人の拘束を続けた裁判官の責任も重大だ」と訴えた。

弁護団メンバーであり約40年間、裁判官として勤務した村山浩昭弁護士は「若手のころは勾留や保釈について、これでいいのかと考えることもあったが、経験を重ねるうちにだんだん鈍感になっていった」と振り返る。

そのうえで「勾留や保釈という裁判官の日常的な判断を変えるのは、実務の壁も高く簡単ではない。しかし憲法を守るために裁判官になり、現状に疑問を抱いている人も必ずいるので、こうした人の初心を呼び覚まし、丹念な立証を求め、それに基づいて判断を下すことの必要性を認めさせたい」と話した。

有馬 知子 フリージャーナリスト

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ありま ともこ / Tomoko Arima

共同通信社を経て2018年独立。取材テーマはひきこもり、児童虐待、性暴力被害や多様な働き方など。

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