「消費のほとんどはサービスだ」というが、それは経済をわかっていない。20%のセクターが大きく沈めば、全体も沈む。さらに、サービスセクターというのは、要はエンターテイメントが大半だから、懐が厳しくなれば、いちばんシュリンクするセクターだ。実際、高級ブランドの消費は、中国だけでなく、アメリカでも激減している。さらに『PBSNewshour』のような番組ですら、「節約ブームの裏側」(What’s behind a thrifting boom among American shoppers)というエピソードを放映している。世界もアメリカも、バブルブームは終焉したのだ。
日本企業と日本経済の利害が一致しなくなってきた
以上の4つの理由にもう1つ加えると、日本経済が分断というより、分裂してきたことがあげられる。日本企業と日本経済の利害が一致しなくなってきたのだ。
例えば、日本経済新聞電子版(7月7日付)にある、日本製鉄・橋本英二会長のインタビュー記事などがその証左だ。
橋本会長は私が尊敬する数少ない経営者であるが、しかし、彼のヴィジョンは実現しないだろう。なぜなら、中国を封じ込めることは不可能だからだ。そして、中国も必ず品質を上げてくる。
中国を敵視しようがしまいが、中国抜きでは、製造業も、今後はハイテク産業も、世界は成り立たない。それにもかかわらず、中国に入られないように、先にインドなどを押さえ、アメリカ、日本と押さえて、世界を制覇するというのは、世界一に日本製鉄はなれるかもしれないが、中国をつぶすことはできず、日本製鉄に肉薄して追いかけるライバルとなるだろう。
そうなったとき、日本製鉄の主要な市場はアメリカで、その次に日本となるだろう。
しかし、アメリカの市場では、同国政府がUSスチールの黄金株を握り、日本製鉄はさまざまな約束をしている。日本製鉄が生き残りを図ったとき、日本市場や日本のほかのメーカーはもちろん、日本経済よりもアメリカを優先させることになるだろう。日本製鉄のライバルは、ほかの日系製鉄会社となるだろう。橋本会長のヴィジョンが実現したとしても、状況は同じだ。つまり、日本経済と日本製鉄の利害は、現時点ですでに一致していないことが明白なのだ。
それにもかかわらず、石破政権は、日本製鉄のUSスチール買収を日本の国益だと思って行動してきた。残念ながらそうではないのだ。そして、それは石破総理が悪いのでも、橋本会長が悪いのでもない。日本政府と日本製鉄との利害が一致しないだけのことだ。日本政府や日本経済と日本の個々の企業の利害が一致することは、現代では難しくなっているだけのことだ。
トヨタ自動車も多かれ少なかれ同じだろう。日本市場とアメリカ市場でどちらが重要かはっきりしている。ただ、生産拠点や本拠地の社会をどう考えるか、トヨタと日本製鉄は違うだけのことだ。武田薬品工業はすでに国籍不明の企業になってしまった。グローバル企業ではなく、どこに軸があるかわからない企業になってしまったのだ。
今後、そのような企業ばかりになっていくだろう。そのとき、政治にリーダーシップがないどころか、全員が有権者の御用聞きになっている現状で、上述の【理由1】の点で述べた、政治の混乱、いかなるリーダーシップも不在のアナーキー政権が成立してしまったときに、財政破綻が起きると、もはや「日本は終わり」となってしまうのである(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が競馬論を語ったり、週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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