「7割超の起業家」に潜む「ドーパミン中毒」のリスク スタートアップの「成功」と「失敗」の狭間にある「罠」とは 「脳内物質」がもたらす「危険な関係」

✎ 1 ✎ 2
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

最後に、起業家の世界を再構築するために、著者はいくつかの提案を行っている。そのなかには、精神科医フリーマンによる次の4つの提言も含まれる。

① 起業家業界は、起業活動に伴う財政の不確実性や困難について現実的なメッセージを伝えること。
② 事業を立ち上げる前に職業適性検査を受けて、起業が自らの特性・性格に適しているかどうか判断すること。
③ 起業家に失業保険を給付すること。
④ 起業家のメンタルヘルス面の支援を充実すること。

『起業中毒』が示す希望

著者のシーマンは、①と④については同意するが、②と③についてはやや懐疑的である。

これ以外では、たとえばアスリートのコーチのように、客観的意見やアドバイスをしてくれる人物を持つべきだと、シーマンは提案する。

さらに、アーリーステージの起業家が過度な借金を負わないように創業者に投資限度を設ける、初期の調達ラウンドでの外部投資を制限する、タームシートに創業者へのメンタルヘルスのサポートを含める、四半期ごとの決算を半年あるいは1年ごとにする、などの具体的な案も示している。

起業家個人の内面的取り組みはもちろん、起業家コミュニティ業界および投資家・VCコミュニティ業界に対しても改革を促しているのだ。

このように、『起業中毒』は大変ユニークな書籍である。ドーパミンの過剰分泌に敏感で、その変動にさらされやすい起業家のメンタルヘルスを健全に保つための、そして健全な起業家エコシステムを構築するための、著者の切なる提言であり、起業家への心からの応援歌なのだ。

庭田 よう子 翻訳家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

にわた ようこ / Yoko Niwata

慶應義塾大学文学部卒業。訳書に『民間諜報員(プライベート・スパイ)――世界を動かす“スパイ・ビジネス”の秘密』(晶文社)、『SS将校のアームチェア』『目に見えない傷』『映画『夜と霧』とホロコースト』(以上、みすず書房)、『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』『ナショナリズムの美徳』(以上、東洋経済新報社)、『疫病と人類知』(講談社)などがある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事