「7割超の起業家」に潜む「ドーパミン中毒」のリスク スタートアップの「成功」と「失敗」の狭間にある「罠」とは 「脳内物質」がもたらす「危険な関係」

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シーマンは、起業家という存在を高く評価する。たとえば、本書でこんなふうに述べている。

「起業家は、この世界が失うわけにはいかない人々だ。彼らは、先進国でも低所得国においても、経済成長と社会の発展の担い手である。……彼らがいなければ、斬新なものも、生活水準の向上も、何もないところからまったく新しい産業を生み出す可能性を手に入れる機会もないだろう」

ドーパミンと起業家の知られざる関係

だが、起業家の世界は過酷である。

先進国では、新規事業の約20%が最初の1年で失敗し、5年以上存続するのは25%にすぎないという。

投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達は骨が折れ、彼らから多大な財政的リターンを要求される。他社との激しい競争にさらされ、過密スケジュールに追われ、厳しい精神状態に追い込まれがちである。

依存症やうつ病になり、希死念慮にかられる起業家も多い。

「起業家の72%がメンタルヘルス上の懸念を訴え、49%が『長年1つまたは複数のメンタルヘルスの疾患』の既往歴」がある。

しかもこれは、「精神的弱さを見せたがらない起業家の自己申告によるデータ」だ。

起業家のなかで、報酬系を活性化させて依存を引き起こすドーパミン作動作用とストレス反応との間にせめぎあいが起こるときに困難が生じるのだろうと考えられる。ところが、ドーパミンと起業家との具体的な関係性についての科学的研究はまだ十分に行われていない。

これはひとつに、ビジネス、臨床心理学、神経科学など複数の異なる分野の研究が必要になるからだ。しかも、こうした分野の研究者の大半は事業を立ち上げた経験がないので、起業家を駆り立てる動機や葛藤、衝動を理解していない。

ドーパミンは起業家を起業家たらしめる要因のなかで大きな割合を占める、とシーマンは考える。

ドーパミンの放出と変動によって、起業家は平均的な人と比べてはるかに強く突き動かされる、または苦しめられる傾向があり、起業家が必要とするエネルギーやスピード、決断力はドーパミンから生まれる特性だと見なしているからだ。

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