"アホボン"では生き残れない!日本のファミリービジネスの変容が招く「お坊ちゃん大学」の岐路
ワコールホールディングス名誉会長の塚本能交氏(2代目)、ソニー共同創業者・盛田昭夫氏の長男・盛田英夫氏、そして今、コメ問題で注目されているコメ卸業者の神明ホールディングス社長の藤尾益雄氏(4代目)などがいる。しかし、現在は募集停止する学科が相次ぎ、厳しい状況にある。
ファミリービジネスの後継者育成大学という点では、『京都ぎらい』の筆者である井上章一氏(国際日本文化研究センター所長)が述べた「京都人の京大観と同志社観」も興味深い話である。井上氏は1970年代に洛中の旦那から聞いた話を引用している。
「君は京大生か。うちらのところではな、近所の家で息子が京大にかよいだしたら、同情されるんや。気の毒に、もうあの子は家の跡をつがへんわ。あの家は、こまるやろな、と。同志社ぐらいが、ちょうどええんや。そこそこ、かしこいし、いずれは店をひきうけるボンも、ぎょうさんかようてる。あそこやったら、次の京都をになう世代が、たがいにつきあえるやろ。京大では、それができひん。あんなとこ、あかん……」(「しんどい洛中――『京都ぎらい』の井上章一が京都に今言いたいこと」文春オンライン、2018年4月2日)
この蘊蓄のある一言は、今でも通じる京商人の「日常の経営学」といえる。一見すると奇妙に思えるが、腑に落ちる話である。
確かに、「2024年 全国社長の出身大学調査」(東京商工リサーチ)によれば、京都府内では今年(11月29日に)150周年を迎える同志社出身の社長が最も多い。なかでも老舗の後継者が多く、その象徴的存在が茶道裏千家。102歳とは思えない矍鑠(かくしゃく)とした千玄室前家元は、旧制中学から大学まで同志社で校友会長を歴任。玄室氏の子息で、裏千家の現家元である千宗室氏、玄室氏の父にあたる淡々斎14代家元と、3代にわたり同志社出身である。
しかし、井上氏が触れたエピソードを表層的に聞いていると、単に世襲を押し付けているだけではないか、時代遅れと受け取られるかもしれない。だが、京言葉には含みがある。
継ぐだけの「アホボン」では生き残れない現実
幾多の苦難も乗り越え生き延びてきた企業・商店には、見えざる叡智が隠されている。そして、老舗のボンボン・お嬢様は先々代・先代が培った資産を引き継ぐだけではなく、成長させていかなくてはならない。
それには革新・変革が求められる。今の時代は、オープンイノベーション、業態転換、海外展開、さらにはスタートアップも考えなくてはならないだろう。
もはや、継ぐだけの「アホボン」では生き残れない。お嬢様が、少々アホでも「ええしの子(息子)」「ええとこの子(息子)」と結婚すれば、セレブな生活がかなえられるだろうと期待したとしても、その保証はない。
(後編に続く)
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