"アホボン"では生き残れない!日本のファミリービジネスの変容が招く「お坊ちゃん大学」の岐路

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同社では、元谷外志雄氏がグループの会長を務める一方、妻である元谷芙美子氏がアパホテルの社長を務めている。夫妻はそれぞれの役職において経営の最前線に立ち、アパグループを大きく成長させた。

ファミリービジネス社長の妻が有名上場企業でトップ・マネジメントを経験したケースもある。星野温泉旅館4代目として事業承継し、ビジネスモデルを改革した星野リゾートの星野佳路(よしはる)社長の妻・星野朝子氏もその1人。2025年3月末まで日産自動車で副社長を務めた。その評価においては、現在、経営不振に陥っている日産の現状を見て賛否が分かれるものの、お互い経営者として語り合える「究極のパワーカップル」といえよう。

このように、現代のファミリービジネスでは多様な形で女性が経営の中枢を担い、その手腕を発揮している。お嬢様も後継者となる時代において、お坊ちゃんのあるべき姿が気になるところだ。

「ボンボン社長」が牽引した武田薬品の実例

かつての「ボンボン社長」は、世間知らずでありながらも、育ちの良さゆえの鷹揚さと愛嬌があり、時に大器晩成型の経営者へと化けることもあった。

1965(昭和40)年から1990(平成2)年頃に黄金期を迎えた松竹新喜劇の看板役者、藤山寛美が演じた「アホボン」は、大店、もしくは中堅企業の何不自由なく育てられた世間知らずのおっとりした御曹司である。間抜けな言動が笑いを誘うが、最後のシーンで「人として大切なものとは何か」をわかりやすく柔らかな大阪弁で説き、それまで笑っていた観客を涙させた。このため、松竹新喜劇は「泣き笑いの人情喜劇」と呼ばれたのだ。

この演出は、大阪の商人文化において、従業員や取引先との距離が近い「気さくな社長」として好意的に見られる世評と重なる。例えば、ロート製薬の山田邦雄会長は社員から「邦雄さん」と呼ばれている。同社には社内ニックネームで呼び合う「ロートネーム」という制度がある。これも「気さくさ」を重視する大阪の社会認識を反映していると考えられる。

大阪では、優秀でも「アホ」を装う美学や、自虐ギャグを口にする「お笑い系経営者」も少なくない。武田薬品の武田國男元会長CEOもその典型であった。長兄・彰郎氏が46歳で急逝したことにより、突然家業を継ぐ立場に押し上げられた。病床の父を見舞った際、「なんでくだらんお前が生きとるんや。彰郎の代わりに、このアホが死んどってくれたらよかったんや」と父の目が語っていたと述懐している(日本経済新聞「私の履歴書」第1回、2004年11月1日)。

長らく本流の医薬事業ではなく傍流の国際部門に配置され、創業家エリートとは遇されていなかったものの、アメリカ市場での事業拡大に尽力し、武田薬品の国際化を推進した。結果として、社長就任後には事業構造改革を断行し、国内製薬企業として初の売上高1兆円を達成するなど、企業の成長を牽引したのだ。

自虐的エピソードを面白おかしく話すがゆえに、おもろいオッサン(おもしろいオジサン)と見られていた「ボンボン経営者」が、本来持つ才覚を発揮した好例である。これこそが、関西の商人文化が育んできた「気さくな社長」の本質を示している。

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