患者をほかの病院へ転院させたほうが“得”…現役医師が指摘する「高齢者医療」の深すぎる闇

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経管栄養、痰の吸引など、日常的に医療処置が必要な場合には、「介護医療院」も選択肢になる。介護医療院は、2017年に介護保険法の改正によって創設された医療依存度の高い人のための介護施設だ。公的医療保険ではなく介護保険の対象なので、長期療養も可能で看取りもしてくれる。

厚生労働省は、「社会的入院」を減らすために、2024年3月をもって介護療養病床を廃止した。介護療養病床にいた高齢者を受け入れる施設となったのが介護医療院で、療養型の病床を介護保険による介護医療院に転換した病院もある。介護医療院は介護施設なので、いくら長くいてもらっても医療施設の平均在院日数には影響しない。厚生労働省にとっても好都合というわけだ。

介護医療院でリハビリをして状態が改善すれば幸せかもしれないが、残念ながら東京都内では数が少ない。それに、介護医療院であっても、居住費、食費、基本サービス費、雑費などで、やはり月十数万~20万円程度の費用がかかる。

前述のNさんの場合、まずは自治体に申請して要介護認定を申請し、介護医療院に移ることを検討した。しかし、長女が住んでいる場所からはかなり遠い東京郊外の施設にしか空きがないと言われ、どうしようか検討しているうちに、地域包括ケア病棟で息を引き取った。

自宅へ戻れたとしても一人暮らしであり、何度も救急車を呼んで入退院を繰り返し、そのうち衰弱して死亡してしまっただろう。

私がかつて診ていた患者さんの中にも、東京都内では入院できるところがなく家でも介護できないということで、縁もゆかりもない他県の特別養護老人ホームへ移って行った人がいる。長年連れ添った妻も年老いて遠出ができなくなったために会いに行けなくなり、“東京から来たよそ者”としてまったく馴染めないまま、さびしく亡くなったと聞いた。

今はまだ遠方であっても入れる特別養護老人ホームがあるからいい方だ。この先は、地方都市では介護の担い手がいなくなり、地元の高齢者人口が減っていくため、地方の特別養護老人ホームも激減する恐れがある。

そうなれば、首都圏の高齢者の行き場はない。

患者を早く他の病院へ移したほうが得

さらに、高度急性期病院では、患者を早く他の病院へ移したほうが得をする仕組みが導入されつつある。

2024年4月の診療報酬改定によって、大学病院や赤十字病院、都道府県立病院など救命救急センターのある三次救急病院が、救急搬送されてきた患者に早期退院を促すと、病院の収入が増えるようになった。

三次救急病院は、ほかの救急病院では対処できないような救急重症患者を24時間受け入れる体制が整った「最後の砦」となる病院だ。

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