トム・クルーズが「日本の母」と慕う”字幕翻訳家” 戦時下で「英語禁止」、デビューまで「20年」・・・ 《レジェンド・戸田奈津子さん》の生き方

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――戸田さんが字幕翻訳家を志してから、本格的な字幕デビュー作となった『地獄の黙示録』を担当するまでに20年近い年月がかかったと聞いております。

でもその20年間、くよくよしていたわけでも、暗かったわけでもありません。むしろ楽しかったですよ。他のことを楽しんでましたから。

私が20年も待っていたのは、単純に門戸が狭かったから。世代が交代して、ようやくチャンスが来たというのが事実。だから、ただただ「待つ」しかなかったということです。

――その「20年待つ」というのがものすごく長く感じる人も多いように思います。今はその“欲望”の力が弱くなっているのではないかと。

でも、それが最初から強い欲望だったら、あきらめないで済むはずですよ。結局は「自分がどれだけ本気か」ってこと。そういう信念があれば、時代なんて関係ない。失敗したっていいじゃないですか。覚悟があれば何も怖くない。

わたしは、この仕事に就けずに、ホームレスになったっていいと思ってました。たとえ20年待ったとしても誰かが仕事をくれるなんて保証なんてなかったですから。たまたまそうなっただけ。もしかしたら永遠に駄目だったかもしれない。でも、それでも自分で決めたことだから誰にも責められない。自分の責任。それはしょうがない。

戦争で抑圧されたからこそ反発した

戸田奈津子
戸田奈津子(とだ・なつこ)/1936年、東京都出身。お茶の水女子大学附属高等学校を経て津田塾大学英文科卒業。短期間の会社員生活や、フリーの翻訳などを経て、1970年に『野生の少年』ではじめて字幕を担当。そして1980年、フランシス・フォード・コッポラ監督の推薦により『地獄の黙示録』で本格的なデビューを果たす。以来、1500本以上の映画字幕を手がけてきた。近年も、トム・クルーズ主演『トップガン マーヴェリック』『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』、コッポラ監督の『メガロポリス』などで字幕翻訳を担当している(筆者撮影)

――“欲望”というのも、やはり“戦争で抑圧された世代”だからこそ、それだけのパワーになったという印象もあります。

それはそうでしょうね。押さえつけられると、人間は反発するんです。でも今はぬるま湯時代だから、パワーが出てこない。

ぬるま湯の中では、反発も起きないんですよ。もちろん戦争は絶対に起こしてはいけない。これは大前提ではありますが、皮肉な話だと思います。

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