トム・クルーズが「日本の母」と慕う”字幕翻訳家” 戦時下で「英語禁止」、デビューまで「20年」・・・ 《レジェンド・戸田奈津子さん》の生き方
――戸田さんが字幕翻訳家を志してから、本格的な字幕デビュー作となった『地獄の黙示録』を担当するまでに20年近い年月がかかったと聞いております。
でもその20年間、くよくよしていたわけでも、暗かったわけでもありません。むしろ楽しかったですよ。他のことを楽しんでましたから。
私が20年も待っていたのは、単純に門戸が狭かったから。世代が交代して、ようやくチャンスが来たというのが事実。だから、ただただ「待つ」しかなかったということです。
――その「20年待つ」というのがものすごく長く感じる人も多いように思います。今はその“欲望”の力が弱くなっているのではないかと。
でも、それが最初から強い欲望だったら、あきらめないで済むはずですよ。結局は「自分がどれだけ本気か」ってこと。そういう信念があれば、時代なんて関係ない。失敗したっていいじゃないですか。覚悟があれば何も怖くない。
わたしは、この仕事に就けずに、ホームレスになったっていいと思ってました。たとえ20年待ったとしても誰かが仕事をくれるなんて保証なんてなかったですから。たまたまそうなっただけ。もしかしたら永遠に駄目だったかもしれない。でも、それでも自分で決めたことだから誰にも責められない。自分の責任。それはしょうがない。
戦争で抑圧されたからこそ反発した

――“欲望”というのも、やはり“戦争で抑圧された世代”だからこそ、それだけのパワーになったという印象もあります。
それはそうでしょうね。押さえつけられると、人間は反発するんです。でも今はぬるま湯時代だから、パワーが出てこない。
ぬるま湯の中では、反発も起きないんですよ。もちろん戦争は絶対に起こしてはいけない。これは大前提ではありますが、皮肉な話だと思います。
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