金融危機が果てしなく深刻化した真相とは? 「ガイトナー回顧録 金融危機の真相」を読む

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バブルの生成とその後の崩壊に、つねに中枢で対応したのがガイトナーだ(写真 :NewYorker / PIXTA)

臨場感あふれる公職一筋の回顧と甘さ

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2008年3月にFRB主導でJPモルガンによるベアスターンズ買収が決まった際、多くの市場関係者は安堵した。システムリスクをもたらす金融機関の破たんを放置すれば、広範囲な取り付けが広がり、金融収縮で経済は崩落する。1997年末の日本の危機を米国は学んでいると多くの人が受け止めた。

しかし、9月にリーマンが破たん、世界同時不況が始まる。当時、表舞台に立つポールソン財務長官とバーナンキ総裁が一線を引く必要があったと説明したため、意図してリーマンを見殺しにし、混乱を増幅させたと考える人が多数だった。本書は、2003~2008年にニューヨーク連銀総裁、2009~2013年に財務長官を歴任し、バブルの生成とその後の崩壊に、つねに中枢で対応した著者の回顧録だ。

本書は、当時、リーマンの壊滅的破たんを回避する法的能力が欠如していたことを当事者として初めて明らかにしている。ベアスターンズへの対応で力尽きたというのが実態だった。さらに、預金保険を運営するFDICを説得できずワシントン・ミューチュアルの預金の一部切り捨てを決定したため、弱い銀行から預金が流出し、危機に拍車をかけたと力不足を語る。

次から次へ大手金融機関が破たんの淵に立たされ、その対応に追われる。大部だが、臨場感にあふれる優れた回顧録に仕上がっている。

危機の原因となった金融機関の強欲を罰する方策を議会は望むが、危機の最中でそれを優先するとリスク回避が加速し、事態はますます深刻化する。経済の崩落を避けるには、まず消火を最優先するのが鉄則だが、金融機関へ配慮したと疑われ、公職一筋だったにもかかわらず、ゴールドマン出身者と疑われなかった日はなかったと語る。

グリーンスパンを含め誰に対しても是々非々の評価を行っているが、興味深いのは、ポールソン、バーナンキについては批判がいっさいないことだ。3人がつねに協調してぎりぎりの選択を採ったため、彼らへの評価が多少甘くなった可能性が疑われる。

クレジットバブルの膨張開始からニューヨーク連銀総裁として金融市場を監督していたことも引っ掛かる。当時、金融監督は複数の機関に分かれ、危機の震源は確かにリーマンなどの投資銀行やAIG、ファニーメイなどいずれもノンバンクで、連銀の管轄ではなかった。また、バブル崩壊後は、財務長官として危機再発を防ぐ制度作りに邁進した。危機回避の制度設計が不十分だったのはそのとおりだが、ニューヨーク連銀が危機の芽に対応しなければほかに誰がそれをできるだろう。もう少し自戒があっていいようにも思えた。

著者
ティモシー・F・ガイトナー(Timothy F. Geithner)
米外交問題評議会ディスティングイッシュト・フェロー。1961年生まれ。米ダートマス大学卒業。米ジョンズ・ホプキンス大学で修士号取得。米財務省に13年間勤務。ニューヨーク連邦準備銀行総裁の後、第1次オバマ政権下の第75代米財務長官。

 

河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長

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こうの りゅうたろう / Ryutaro Kono

1964年愛媛県生まれ。1987年横浜国立大学卒。住友銀行、大和投資顧問、第一生命経済研究所を経て2000年から現職。政府の審議会などの委員を歴任。近著に『金融緩和の罠(共著)』(集英社新書)など。

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