「成功したのは実力のおかげ」と考える人や「失敗したのは自分のせい」と考える人は、なぜ偶然の影響を無視してしまうのか

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私たちは、そうした嬉(うれ)しい驚きの瞬間には、自分の誕生日を祝ってもらっている犬のように振る舞う。突然どうしたことかチキンやチーズをたっぷり与えられ、わけもわからないまま、それでも何の疑いを抱くこともなく貪り食う。

それなのに、何であれ重要なことを説明しようとするときには、ランダム性と偶然性はあっさり忘れ去られてしまう。

人間の多様性を、私たちがどのように理解しようとするか、考えてほしい。私たちはほとんどの場合、過度に単純化した二分法に頼る。きっと、生まれ(遺伝子)と育ち(環境、養育のされ方、経験)の組み合わせのせいに違いない、というわけだ。

そして、第3の可能性は無視することが多い。私たちの多様性のうちには、ただの偶然や成り行きにすぎないものもあるかもしれないというのに。

行動遺伝学者は、私たちの多様性のおよそ半分がDNAに帰せられる、と結論している。これはつまり、残る半分は、いわば発育における暗黒物質、生命の不可解な詳細のせいであることを意味する。

ランダムな偶然が人生の道筋を左右する

キングズ・カレッジ・ロンドンの行動遺伝学者ダミアン・モリスは、私たちの人生の道筋はときおり一見ランダムな偶然に左右されうる、と主張し、同じ教室にいる一卵性双生児の話を使って説明している。

「一方は窓から外を見ていて、近くを通過した鳥に注意を逸(そ)らされる。ちょうどそのとき、もう一方は、ある詩についての教師の解説に心を奪われ、それがきっかけで生涯にわたる詩への愛好が芽生える」

その後、2人は大学で別の分野を専攻し、異なるキャリアを送ることになる。それもこれも、たまたま窓の外を1羽の鳥が飛んでいったからだ。

モリスの推測は、科学的に実証されつつある。一見ランダムな変動が、誕生前の赤ん坊の脳の発達期間に始まることが明らかになってきており、そうした小さな変化が私たちの人生の道筋でじつに大きな役割を果たしうる。

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