女性にしかわからない苦労は、ベトナム人も日本人も同じようだ。

「またグエンか」という日本人の声も、よく知っている
日本語力がアップするにしたがって、アルバイトもより専門的なものになっていく。JLPT(日本語能力試験)で上位のN1、N2にもなれば、通訳や翻訳のアルバイトも舞い込むようになる。そうすれば時給もグンと上がる。リンさんは大学1年時にすでにN1を取得している。これ、とっても難しい試験なのだ。日本人の僕も受かる自信はない。
「でも、勉強して合格したら、コンビニや飲食店で働くよりずっといい給料になるからがんばってって、いつも後輩に言ってるんです」
ハさんは日本人にベトナム語を教えたり、免税店で通訳をしたり。リンさんは技能実習生が来日直後に受講する日本語教室で教師を務める。
「みんなベトナムである程度は勉強してくるから筆記試験はできるんですが、コミュニケーションに慣れていない人が多いですね」
その技能実習生による犯罪が、昨今どうしても目立つ。盗難、ケンカ、バクチ、無免許運転……職場から失踪し、不法就労者となって、割りはいいがリスクも高い「闇バイト」に手を出す人も多い。
法務省の「犯罪白書」によれば、2023年に外国人が被疑者となった事件1万7463件のうち37.9%がベトナム人で、中国の18.9%を大きく引き離す。しかしその大半は不法就労、オーバーステイといった出稼ぎ目的のものか、窃盗など比較的重くはない罪状だ。
しかし外国人による犯罪は報道されやすい傾向にあるし、それもセンセーショナルにあおり立てるものが多いから、どうしたって日本人の肌感覚では「またベトナム人か」となる。
「またグエンか、って言われると……」
リンさんの声は悲しげだ。日本のルールやマナーをしっかり守り、日本語をこれだけ使いこなせるようになるまで学び、日本に溶け込もうと努力している彼女たちも一緒くたにされてしまう。ベトナム人に多い名前「グエン」が、一部の日本人の間でまるで蔑称のように使われている現状を、リンさんたちもよく知っている。
「確かにベトナム人には悪いことをする人もいます。でも、そうなった背景も考えてほしいって思うんです。私の知り合いの実習生は給料が手取りで10万円って言ってました。悪い送り出し機関にだまされて、契約書には手取り15万円って書いてあったのに実際に日本に来てみたらもらったのは半分だけでショックを受けたって話も聞いたことがあります」
日本には出稼ぎに来たのだ。家族に仕送りをしなくてはならないというプレッシャーがあるところに、悪い話があれば飛びついてしまう。そんな人もいる。
だからベトナム人は住む部屋も、ビジネスを始めようとしてもオフィスや店舗も借りにくい。
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