横丁の路地裏に、南国があった。
店の中はタイのナイトマーケットを思わせるごちゃごちゃさでメニューやらポスターやらが貼られ、タイの雑貨やガイドブックが飾られて、なんだかおもちゃ箱のようだ。テレビからはタイの明るいポップソングが流れる。
あまりのハデさと賑やかさに驚いていると、明るい声が響く。
「いらっしゃいませー、サワディーカァ!」
タイ語のあいさつとともに印象的なのは、なんとも明るく魅力的な、その笑顔。「アジア食堂ココナッツ」の看板娘、小林ポンティップさんだ。
「微笑みの国」とも呼ばれるタイから来た母と、日本人の父を持つ彼女の笑顔に癒やされて、束の間のタイ旅行気分に浸るため、今日も多くのお客がやってくる。
バンコク生まれ、日本育ち
ここは東京都武蔵野市吉祥寺。駅の北口を降りた目の前に、迷路のように狭い道が入り組む一角がある。戦後のヤミ市をルーツとする「ハモニカ横丁」だ。昔からのたたずまいを残しつつ、いまではおしゃれな居酒屋やバーも軒を連ねる不思議な空間になっているが、「アジア食堂ココナッツ」もその中に溶け込んでいる。
タイでは誰もが本名ではなくチューレン(ニックネーム)で呼び合う文化だが、ポンティップさんは「なっちゃん」という名で親しまれる。
「お母さんが妊娠しているときに、よく梨を食べていたそうなんです。それと、ジュースの『なっちゃん』もよく飲んでいて、お腹の中にいるときから私のことをなっちゃんって呼んでたみたいなんです」



















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