慶應SFCの学生の多くが間違えた「ベイズ理論」の難問。あなたは“論理的思考”が本当にできていますか?数字にだまされないリテラシーを磨くには

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかしこの結論は誤りです。「そもそもこの病気にかかるのが1000人に1人の割合であること」(事前確率)をまったく無視しています。こうした重要な数字を無視した上で、多くの人は検査で陽性が出たことにショックを受けて、「自分はこの病気になってしまった」と思い込んでしまうのです。

では、検査薬に陽性反応が出たとして、実際に感染している確率はどれくらいになるのでしょうか。その確率は、以下の式で求めることができます。

(感染していて、かつ、陽性反応が出る確率)÷{(感染していて、かつ陽性反応が出る確率)+(非感染者の分布確率×非感染で陽性反応が出る確率)}

この式に数字を当てはめると、次の通りです。

(0.001×0.98)÷{(0.001×0.98)+(0.999×0.01)}=0.00098÷(0.00098+0.00999)≒0.0893345488

つまり、およそ8.9%です。

数字にだまされないために

このケースでは、検査をして「陽性」という結果が出ても、実際に感染している確率は8.9%にすぎない。

人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学 (日経プレミアシリーズ)
『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』(日経BP 日本経済新聞出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

この確率が理解できれば、陽性反応が出たからといってパニックになる必要はないのですが、結局人には、確率を正しく捉えることも、「1000人に1人の割合でしかその病気にならない」という背景情報を適切に考慮することも難しい。それで確率の理屈と計算の意味を理解せずに、感情的に結論づけてしまうことが普通、ということなのです。

この「ベイズ理論」に基づく確率の考え方はなかなか難解で、直感的に理解しにくいので、ほとんどの人はこの数式をさっと適用して確率を計算するということができないと思います。でも、世の中で起こっていることを合理的に考えるには非常に有益で、数字にだまされないためにも必須です。

インターネットにも詳しい解説がありますので、論理的・合理的な思考の一助として、この考えを理解しなじめるようにトレーニングしていただきたいと思います。

今井 むつみ 慶應義塾大学名誉教授、今井むつみ教育研究所代表

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いまい むつみ / Mutsumi Imai

1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。慶應義塾大学環境情報学部教授を経て現職。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。主な著書に『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)、『学力喪失』『ことばと思考』『学びとは何か』『英語独習法』(すべて岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書、「新書大賞2024」大賞受賞)、『言葉をおぼえるしくみ』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店)などがある。国際認知科学会(Cognitive Science Society)、日本認知科学会フェロー。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事