無職にはなれても、無食にはなれない
人間は、何も食べずに生きていくことはできない。水も飲まなければ4、5日しかもたないし、水を飲んでいても2、3週間で死んでしまう。動けるうちに、水を見つけ、食料を手に入れるというのが、生きていくうえで必ずやらなければならないことだ。これが働くことの基本だろう。かつては狩猟をし、農耕をし、今はさらに複雑化しているが、基本は今も肉を食べ植物を食べ、それを得るために働いている。
「いや、自分は“食べるため”に働いてなどいない、もっと高邁な理想を抱いて働いている」という人もいるだろう。しかし、そういう人でも、もし無人島に流されたりすれば、まず水と食料の確保のために働かざるをえない。「衣食足りて礼節を知る」だし、極度に飢えれば、人は人さえ食べてしまうことは、「ひかりごけ事件」などさまざまな事例が示している。
世を捨てて出家をしても、やはり何かを食べなければならない。托鉢などをしなければならない。無職にはなれても、無食にはなれない。仙人は「霞(かすみ)を食べて生きている」とされる。食べることから逃れるためには、仙人になるしかないのだ。いや、その仙人でさえ、霞を食べている。




















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