朝ドラ「あんぱん」の演技が話題、河合優実は山口百恵の“再来”なのか? 共通する「暗さ」の魅力、異なる時代背景
日本アカデミー賞最優秀主演女優賞の対象作品となった映画『あんのこと』(2024年公開)は、戦時中ではなく、まさにいまの日本社会の話だ。だがこの映画でも、河合優実は同じ魅力を見せてくれる。

河合が演じる香川杏は、貧しい母子家庭で育った。母親に強制されて生活費を稼ぐために小さい頃から売春をさせられ、そのあげくに覚醒剤使用で捕まってしまう。
それでも杏は、親身になってくれる刑事(佐藤二朗)やジャーナリスト(稲垣吾郎)と出会い、介護施設で働き、学校にも通うなど少しずつ自立の道を歩み始める。しかしその矢先コロナ禍に。働くことも学校に通うこともできず、拠り所となってくれた人たちとも離れ、再び孤立するようになる……。
この映画は、実話に基づいている。それゆえありがちなストーリー展開にはならない。しかしだからこそ、現代社会の負の側面が生々しくえぐり出される。そしてそう感じられるのは、河合の演じる杏が、やはり「そこにいま本当にいる」と思わせてくれる実在感を強烈に放っているからだ。
『あんぱん』と『あんのこと』の時代背景に共通しているのは、「暗い」ということだろう。河合優実が両作品で示した魅力もまた、「暗さ」を体現できる彼女の資質抜きには語れないように思う。
宮藤官九郎脚本でコメディ色が強い『不適切にもほどがある!』(2024年放送)で演じた小川純子役では一見「暗さ」は隠れているが、過酷な運命をたどることになる展開には「暗さ」の要素が垣間見える。
歌手・山口百恵が身にまとった「暗さ」
2019年デビューで今年25歳になる河合優実だが、そのたたずまいなどから1970年代の大スター・山口百恵を彷彿とさせるという声をSNSなどでよく目にする。確かに山口百恵の大きな魅力の要素になっていたのも、彼女が身にまとう「暗さ」だった。
1959年生まれの山口百恵は、日本テレビのオーディション番組『スター誕生!』で合格。その後歌手として『プレイバックPart2』(1978年発売)など数々のヒットを飛ばし、19歳の若さで『NHK紅白歌合戦』のトリも務めた。また俳優として多くのドラマや映画に主演してこちらもヒット。単なるアイドルの域を超えた大スターになった。
子どもの頃の山口百恵は喜ぶことが下手で、大人たちから「はりあいのない子」と言われ、心を痛めたという。またコミュニケーションが苦手で重要なことを言いそびれてしまうなど「口の足りない子」とも言われ、そうしたことが大きな劣等感にもなった(山口百恵『蒼い時』)。
歌手人生の大きな転機になったヒット曲『横須賀ストーリー』(1976年発売)は、そんな山口百恵のなかにある「暗さ」を歌詞の世界観に反映したようなものになっている。
作詞した阿木燿子によれば、「街の灯りが映し出す あなたの中の見知らぬ人」という一節は、横須賀の街の色とりどりのネオンを思い浮かべて書いた。
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