その結果、製薬会社のトップたちは、大統領に自分たちの懸念をわかってもらえた、あの大統領ならきっと力を貸してくれるだろうという印象をもって、ホワイトハウスをあとにしたのである。
これは珍しい話ではなかった。2017年、ロイターはトランプが開催した同様の会合に出席した10人以上の企業幹部やロビイストにインタビューをおこなった。
アメリカの自動車メーカーの会合を主催した際、トランプはゼネラルモーターズ(GM)CEOメアリー・バーラの肩を気さくに叩き、もっと地元の雇用を増やしてほしいと穏やかな口調で頼んだ。動画の文字起こしによると、その後、会合を始めるとき、トランプは彼女のために椅子を引いてあげたようだ。
この会合で、彼はまたフォードCEOのマーク・フィールズに「誕生日おめでとう。レディース・アンド・ジェントルメン、きょうは彼の誕生日だ」と挨拶した。
またフィアット・クライスラー・オートモービルズCEOのセルジオ・マルキオンネには、お目にかかれて「非常に光栄だ」と言った。
GMのメアリー・バーラはいたく感銘を受け、その1カ月後に開催された会合のスピーチで、あのときはトランプが自動車メーカー側の懸念について「本気で耳を傾けてくれた」と述べた。
トランプのツイッター〔訳注 現X〕への投稿のせいで米国自動車メーカーの株価が下落し、時価総額が大きく下がっていたにもかかわらず、トランプと直接会ったあとには大半のトップが支持にまわったのだ。
お世辞は人を信用させる
実際に会うと、トランプは魅力を全開にして相手をおだてて丸め込もうとする。公の場ではツイッターで自動車メーカー業界をこきおろす横暴な人間だが、直接会ってみると違う人物がいたのである。
衣料品を販売する店員なら誰でも知っていること、そして心理学者たちが繰り返し立証してきたことを、トランプは熟知していた――お世辞を言えば物事がスムーズに進むことを。つまり人間はお世辞を言ってくれる相手を信用しやすいのだ。
この分野における重要な研究に、ノースカロライナ大学のチームが1978年におこなったものがある。被験者はある人物に話しかける。その人物は被験者と会話を始め、被験者についてネガティブな感想、ポジティブな感想、両方が混じっている感想を伝える。
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