世界が混乱した「トランプ関税」が示す戦後秩序の大きな変化、"覇権国"の不在で生じる世界経済の新たな“分断”リスク

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――日本国内の課題については、どう考えていますか。

国内では、「トランプ関税の影響で、来年の賃上げは難しくなるかもしれない」という議論もあるかと思います。しかし日本の場合、きちんと生産性が上がっている分を賃上げしているかというと、十分にはできていない。

人手不足にもなっていますから、「関税があるから……」などと言っていると若い人を採用できないということにもなるので、しっかり賃上げしていくことが大事だと思います。

――アメリカの格差拡大も、国内での所得の再分配で緩和できるかもしれない。しかし敵を外に見いだすことで、今のトランプ政権の流れができているようにみえます。

そうですね。ミランCEA(大統領経済諮問委員会)委員長の考えについても、本来なら国内でうまくいっているIT・金融関連からきちんと税金を取って所得の再分配をすることが、制度の安定性を図るために必要です。しかしそれをせず、安全保障あるいは国際金融のコストが「ただ乗り」されているといって、他国にそのコストを求めるということになると、その制度の持続性をさらに弱めることになりかねない。

日本がこれまでに“やっていなかった”こと

――「所得の再分配」を日本に置き換えると、賃上げになるのでしょうか。

ずばり、そこになると思います。メインバンク制が崩壊した1990年代から、日本の企業は長期雇用を維持するため、正社員のベースアップを凍結してきました。また非正規雇用に頼るようになって、人件費の一部を変動費に変えるようになってしまった。

この四半世紀はアメリカと同様、ITデジタル革命などの影響で中間的な賃金の仕事がなくなったときに、社会保障制度をアップグレードするとか、積極型の労働市場政策というのはまったく取られなかった。アメリカを責められるほどのしっかりしたことを、日本はやっていなかったということです。

――日本においては中間層の没落が、非正規雇用の拡大としてあらわれ、「財務省解体デモ」のような形で怒りの声を上げていると。

ITデジタル革命・グローバリゼーションでダメージを受けた人たちが、高い教育を受け社会を支配する「ディープステート=闇の政府」に対抗しないといけない、というのがトランプ大統領の論理。

まさに「ザイム真理教」の議論というのは、日本版「ディープステート」の陰謀論ということでしょうね。

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