世界が混乱した「トランプ関税」が示す戦後秩序の大きな変化、"覇権国"の不在で生じる世界経済の新たな“分断”リスク
――自由な民主主義であるはずのアメリカが自由貿易を否定し、「世界の警察官」を含めて“覇権国”の役割をやめようとしているようにみえます。
実際にはアメリカは、極端に税率の高い相互関税の上乗せ部分を取り除きつつも、一律10%の部分は残すと思います。すると一定程度の関税を残すアメリカと、自由貿易を志向するヨーロッパ・中国・日本などという形で、2つに分断が起こる可能性があります。
日本としての対応は明らかで、TPPまたはRCEP(地域的な包括的経済連携協定)で自由貿易の旗を振っていく。同時に安全保障の問題もありますから、アメリカで売るものはアメリカで作るという、「新・地産地消主義」にもなろうかと思います。
またヴァンス米副大統領は、今年2月のウクライナ戦争終結に向けたミュンヘン会談で、あたかもヨーロッパが仮想敵国であるかのようなことを言いはじめています。なので、アメリカと離反するヨーロッパが、中国と接近しやすいということがある。
日本にとっては、「アメリカと中国のどちらにつくのか」と、最終的にアメリカから迫られたときに難しい部分があるかもしれません。
1期目のトランプ政権後も保護主義は残った
――「自由貿易」「グローバル化」の揺り戻しの動きについて、どう考えるべきでしょうか。
自由貿易は大事ですが、この30年余りを振り返ると、やはり「行き過ぎ」が起こっていたということだと思います。グローバリゼーションやITデジタル革命の影響で、中間的な賃金の仕事がなくなってしまったと。そしてそうした人たちが低い賃金の仕事に流れ込み、低い賃金がもっと低くなってしまったがゆえに、賃金の2極化が起こってしまった。
この流れで中間層が支持していた中道派の政党が瓦解し、極右極左の政党がヨーロッパで蔓延し、アメリカの共和党・民主党も相当に変質してしまっている。
「成功した人たちに課税する形で所得の再分配を行う」「イノベーションや自由貿易でメリットを受ける人たちばかりでなく、ダメージを被る人たちを後押しする」、という視点の政策が抜けていたと思います。
もう一つは、あたかも私たちは自由貿易で最適な資源配分が達成されたように言いますが、いわゆる「規制逃れ」の面があったと思います。
つまりグローバル企業に対し、「アメリカではなくわが国で工場を建ててくれれば、法人税を減免します」「アメリカほど賃金はかからず、労働法制でうるさいことを言いません」と。確かに企業経営者や株主は大きなメリットを受けたわけですが、外部不経済として、先進国の労働者にしわ寄せされたということだと思います。
ですからトランプ大統領の1期目の政策というのは、バイデン政権で全部巻き戻されず、保護主義的な部分は残ったままだった。これがまたポスト・トランプで自由貿易に戻るかというと、特にアメリカでは元には戻りそうにない。
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