肝臓は”マンション一つ買える”金額も、≪海外で臓器移植≫に踏み切る切実な事情とは。選択肢のない患者に「座して死を待て」と言えるか

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小野田忠さん(仮名)が中国に渡り、肝臓移植を受けたのは40代後半。健康を取り戻し、現在は大阪で包装用紙専門の卸売業を営んでいる。

斉木輝雄さん(仮名)も同じ時期に中国で腎臓移植を受けた。彼もまた40代後半で働き盛りだった。斉木さんの父親は46歳で慢性腎不全を発症し透析治療を受けていたが、透析開始後10年で死亡している。

「移植しなければ、父親と同じに10年後は死ぬんだと思いました。日本臓器移植ネットワークに登録しましたが、待機期間15年と聞かされ、待っている間に私は確実に死ぬと思いました」

もう1人、漆原大介さん(仮名)もやはり50代に入り腎臓移植を受けた。電気機器メーカーの社長だ。

「私は日本臓器移植ネットワークに登録していません。最初から献腎移植、そして身内からの生体腎移植はあきらめていました。生きるためには海外での移植以外に考えられませんでした」

3人は同時期に中国の天津市第一中央病院臓器移植センター(天津市第一中央医院・器官移植中心)で移植手術を受けた。

一部には脳死からの提供もあるが、ドナーの多くは死刑囚、あるいは「良心の囚人」、法輪功関係者と言われている。

3人は難病患者支援の会に移植手術を依頼、腎臓は2000万円、肝臓は「マンション一つ買える費用」を支払っている。つまり肝臓は3000万円台、4000万円台だと思われる。中国国内でも肝臓移植を望む患者は多く、移植用の肝臓を日本人に回してもらうためには様々な経費が必要となる。

選択肢のない患者に「座して死を待て」と言えるか

岡山大学の粟屋剛教授(当時。専門は生命倫理学)は、中国での移植についての調査を1995年から開始している。日本人患者、海外渡航移植援助業者(通訳・サポート業者ないしは仲介業者)らと中国を訪れ、現地調査を行っている。その調査結果をもとに、アメリカ連邦議会(下院)公聴会で証言、意見陳述も行ってきた。

粟屋教授は調査の目的についてこう述べている。

「臓器摘出対象とされる死刑囚等に人権があるように、自国内で移植が受けられずに外国に出向く患者にも人権がある。前者が国家権力の下の弱者なら、後者は医療権力の下の弱者である(とくに日本の場合)。(略)

選択肢のない患者に『座して死を待て』と言うことが真の倫理とは考えられない。さらに言えば、このような倫理的・法的、社会的問題に真っ向から取り組まなければ生命倫理(学)の存在意義は消失すると思われる」

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