肝臓は”マンション一つ買える”金額も、≪海外で臓器移植≫に踏み切る切実な事情とは。選択肢のない患者に「座して死を待て」と言えるか

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日本人レシピエントに対するアンケート調査は、2014年3月末時点で、有効回答41通、2015年2月18日時点で55通にのぼる。

▼手術年
1998年以前 6%
1998年~2002年 4%
2003年~2007年 20%
2008年~2012年 43%
2013年以降 27%
▼年収(レシピエント)
500万円未満 23%
500万円以上1000万円未満 33%
1000万円以上1500万円未満 19%
1500万円以上2000万円未満 2%
2000万円以上23%
▼手術金額
500万円未満 8%
500万円以上1000万円未満 44%
1000万円以上1500万円未満 25%
1500万円以上 23%
▼仲介料
100万円未満 8%
100万円以上500万円未満 29%
500万円以上1000万円未満 31%
1000万円以上 32%

年収1000万円未満のレシピエントが6割近くを占めており、彼らが多大な金銭的犠牲を払って中国での移植に臨んでいる事実がうかがえる。

移植に消極的な日本移植学会

3人が、多額の金銭を払ってでも中国での移植に踏み切る切実な事情は、それぞれである。斉木さんは、父親だけではなくおばも透析治療を受け、10年後に死亡している。いとこにも透析患者がいる。

『臓器ブローカー すがる患者をむさぼり喰う業者たち』(幻冬舎新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

「透析の限界のようなものは早くから知っていた。だからなるべく透析の導入を先送りにすべくやってきた」

食事を制限して、塩分をはじめとしてタンパク質、カリウム、リンの摂取量を調整し、薬だけで満腹になるほどの量を服用していた。肌はカサカサに乾燥し、爪はボロボロの状態だった。

「体中に斑点が出てきて、それが大きくなり傷んだ桃のようになって広がっていった。亡くなった父親の姿とまったく同じ状態だった」

日本臓器移植ネットワークから提供される献腎を待っている余裕などない。当然、生体腎移植を考えた。ではドナーを誰にするのか。

日本移植学会は生体腎移植には消極的だが、「例外的にやむを得ず行う場合」には、WHO指導指針、国際移植学会指導指針、厚労省公衆衛生審議会による「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針を参考にし、以下の点を遵守することとしている。ドナーの選定には厳しい条件が課せられている。臓器売買を未然に防ぐためだ。

(1)親族に限定する。親族とは6親等内の血族、配偶者と3親等内の姻族をいう。
(2)親族に該当しない場合においては、当該医療機関の倫理委員会において、症例毎に個別に承認を受けるものとする。その際に留意すべき点としては、有償提供の回避策、任意性の担保等があげられる。
(3)提供は本人の自発的な意思によって行われるべきものであり、報酬を目的とするものであってはならない。
(4)提供意思が他からの強制ではないことを家族以外の第三者が確認をする。「第三者」とは、ドナーの権利保護の立場にある者で、かつ倫理委員会が指名する精神科医等の複数の者をいう。
(5)ドナーへのインフォームド・コンセントに際しては、ドナーにおける危険性と同時に、レシピエント患者の手術において推定される成功の可能性について説明を行わなければならない。
(6)ドナーは提供手術が実施されるまで、提供の意思をいつでも撤回することが可能である。
(7)20歳未満ならびに自己決定能力に疑いのある場合には、ドナーとなることはできない。

しかし実際の移植医療の現場で、「提供は本人の自発的な意思」「提供意思が他からの強制ではないこと」などを確認するのは困難を極める。

高橋 幸春 ノンフィクション作家、小説家

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たかはし ゆきはる / Yukiharu Takahashi

1950年、埼玉県生まれ。早稲田大学を卒業後、ブラジルへ移住。1975年から3年間、サンパウロで発行されている邦字新聞「パウリスタ新聞」(現・ブラジル日報)の記者を務める。帰国後、高橋幸春のペンネームでノンフィクションを執筆。2000年からは麻野涼名義で小説も手がける。ノンフィクションに『カリブ海の「楽園」』(潮ノンフィクション賞受賞)、『蒼氓の大地』(講談社ノンフィクション賞受賞)、小説に『天皇の船』(江戸川乱歩賞候補「大河の殺意」を改題)、『国籍不明』(大藪春彦賞候補)、ドラマ化された『死の臓器』などがある

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