東洋経済オンラインとは
ライフ #獣医病理医からみた「動物の話」

苦しい抗がん剤治療を受けた意味はあったのか、あの子は幸せだったのか…リンパ腫を患った愛犬の死。その体が飼い主に教えてくれた「本当のこと」

6分で読める
  • 中村 進一 獣医師、獣医病理学専門家
  • 大谷 智通 サイエンスライター、書籍編集者
2/4 PAGES
3/4 PAGES

食べ物や唾液などの異物が気管に入ってしまうことを、誤嚥といいます。誤嚥性肺炎は、この誤嚥が原因で起こる肺炎です。

通常、異物が気管に入ると、反射機能が働いて気管から排出されます(私たちも、ときどきむせて咳き込みますよね。あれが反射です)。しかし、加齢や何らかの病気でこの反射機能が落ちていると、気管に入り込んでしまった食べ物を排出できず、結果として肺が細菌に冒され、炎症が起こることがあるのです。

人でも特に高齢者で頻発し、厚生労働省が2024年に公開しているデータによれば、日本での死因の6位がこの誤嚥性肺炎です。

「コスメティック剖検の結果、直接の死因は誤嚥性肺炎でした」

そう飼い主さんにお伝えすると、飼い主さんは「がんの治療を始めてからずっと食欲がなかったのに、あのときは夢中になってご飯を食べてくれたんです。うれしくてつい、たくさんあげてしまいました。そのせいで肺炎を起こしてしまったんでしょうか……。だとしたら、かわいそうなことをしてしまいました」とおっしゃいます。

その言葉のトーンからは、深い後悔の気持ちがにじみ出ていました。

1~2カ月の命が1年以上延びた意味

たしかに、がんとその治療で体力が落ちている状態で、餌を勢いよく食べてしまったことが、誤嚥性肺炎を引き起こす遠因になった可能性は否めません。

ただ、発症したリンパ腫を放置していれば、ミニチュアダックスは1~2カ月しか生きられなかったはずで、それが治療によって1年以上に延びたといえます。また、病理解剖によって、治療によってがんの進行がある程度は抑えられていたこともわかっています。

つまり、このミニチュアダックスは、がん治療を頑張った結果、飼い主さんとより長い時間一緒にいることができたのです。

最期も、ご飯を思う存分に食べてその日の夜に亡くなったのですから、肺炎で長く苦しむこともなかったでしょう。ミニチュアダックスと飼い主さんにとって、がん治療を頑張ったことは、決して不幸なことではなかったと思います。

次ページが続きます

4/4 PAGES

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ライフ

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象