人の抗がん剤治療がそうであるように、イヌの抗がん剤治療でも重い副作用を伴うことがあります。抗がん剤治療が始まってからのミニチュアダックスは、日常的に嘔吐や下痢をしており、「つらそうで、かわいそうだった」と飼い主さんはいいます。
それでも飼い主さんは病気がよくなることを願い、毎週、そのミニチュアダックスを車に乗せ、動物病院へ点滴治療に通っていました。ミニチュアダックスも、病院までの飼い主さんとのドライブを楽しんでいる様子だったそうです。
そんなある日、がんと治療でずっと食欲が落ちていたミニチュアダックスが、突然水を飲みたがり、ご飯を食べたそうにしました。飼い主さんが水と餌を与えると、夢中になってたくさん食べたそうです。
しかしその夜、ミニチュアダックスは突然、呼吸困難に陥り、亡くなってしまいました。
がんではなかった愛犬の死因
飼い主さんは、「コスメティック剖検」での病理解剖をご希望でした。
以前の記事(ペットを「おくりびと」に託した飼い主の深い愛情)でもご説明しましたが、コスメティック剖検では、切開部位は最小限にとどめ、臓器摘出後の傷口もていねいに縫合します。そして最後は、体をきれいに拭き、毛をきちんとブラッシングしてから、遺体をご家族にお返しします。
体に起こったことを知るために解剖をするにしても、体はできるだけ傷つけたくない――。そんな飼い主さんの思いからは、このミニチュアダックスが家族同然に大事にされていたことが推察できました。
さて、病理解剖の結果、たしかに事前の情報どおり、ミニチュアダックスはリンパ腫に冒されており、そのがん細胞が全身のさまざまな臓器に散らばっていました。
しかし、それ自体は重篤ではなく、死因は肺に起きた炎症だということも判明します。つまり、ミニチュアダックスの直接の死因は、がんではなく肺炎、正確には誤嚥性(ごえんせい)肺炎だったのです。