「54台のカメラで住民を監視」渋谷の一等地マンションで30年独裁を続けた管理組合理事と住民の壮絶な戦い(前編)
まず、引っ越しの当日、搬入物の持ち込みを管理人の大山から拒否された。服飾関係のパタンナーである多鹿は、自らの職業について面談で伝えていた。ところがテーブルや足踏みミシン、アイロン台という精密機械を引っ越し業者がクレーン車で搬送している時に、大山が飛び出してきた。
「こんなことは前代未聞だ!! 今すぐ外に出せ」搬入物をこれもダメ、あれもダメと業者を追い返そうとする。職業に関係がないダイニングテーブルも業務用だと断定され認められない。いくつかの荷物を部屋に運び入れられないまま、時間は17時を迎え、「業者の立入禁止」時間となった。
入居時のトラブルゆえか、入り口の夜間用タッチキーも1週間手渡しを拒否される。仕事から帰ってきた新婚の妻に事情を説明すると、ただただ呆気に取られていた。
管理組合の体制も込みで、妻を説得した上で購入した。覚悟は決めていたつもりだったが、とても耐えられそうにないと、初日に気づかされた。それと同時に確信する。
「300世帯も人がいて、全員が黙っているはずがない。理不尽と闘う人が出てくるはずだ、と。ただし、それは新参者の自分が中心となるべきではない。必ず体制が打ち倒される中で、自分も出来るだけのことはしたい、と早々に決意しました」
その後、多鹿はマンション内の掲示物で“怪文書”(有志の会の投函書類)が出回っていることを知る。どうやら反理事会の運動者がいるらしきことは分かった。入居間もない多鹿には、それが誰であるか皆目見当がつかない。いつかは接触があるはずだ、と待ち続けるも、有志の会からのコンタクトはなかった。そんな折に届いた総会案内。多鹿は意を決し足を運んだ。
総会で目にした異様な光景
2020年2月26日。晴天のもと、この年の通常総会が行われた。会が始まって間もなく、多鹿は異様な光景を目撃する。吉野理事長が住民へ向けて強烈な言葉を投げかけていた。
「我々は政治団体ではないのです!」「同じ屋根の下、同じ住民同士でこんなことするなんて」「私たちはマンションを守る使命があるのです!」「こんないい加減なこと書いて! 酷いじゃないですか!」「去年の大型台風の時、みなさんが眠ってる時間に、そんな時間に私たちは……」区分所有者からの質疑を受けての発言だった。
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