「54台のカメラで住民を監視」渋谷の一等地マンションで30年独裁を続けた管理組合理事と住民の壮絶な戦い(前編)

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「我々がいかにマンションのために努力や労力をかけているか」、理事会のそんな主張が続く。すると、5分ほど話したところで会場からため息交じりに声が上がった。「まだ続くんですか? 早く議題に入って下さい」

多鹿は冷静な声を聞いて、胸をなで下ろした。役員改選の年でもない平日の総会に、52名が出席していた。会場は、用意した机の椅子に座りきれない出席者が壁沿いのパイプ椅子に座る満員状態。多鹿の記憶では、中島が白子での事件を詳細に説明していることが印象的だった。

吉野理事長が白子の理事長も並行で行っていること。選定した業者が重なっている点。それらをつまびらかにしていた。中島の発言を受けて、議長が制止するように返答する。

女性住民に対し、理事から辱めの発言

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「利益誘導はしていませんから」すると、今度は女性参加者が呼応する。「私は長年理事会に理不尽にいじめられ続けてきました」彼女の叫びが、この日聞いた中で最もリアルに多鹿には聞こえた。しかし、それに続く、「男の人を連れ込んでいましたよね」という理事の一人からの辱めのような発言により、女性は口を閉ざしてしまう。

総会ではかねてから問題視されていた入居者面談についての議題も上がった。吉野理事長は、“怪文書”(有志の会の投函書類)の内容に触れ、すかさず否定する。「こんないい加減なこと書いて。やっていませんから」と、強い口調で反応した。

この日は、入居前面談等で賃貸希望者を却下された区分所有者が3名も出席していた。当然反対意見も飛んだ。多鹿も同様に面談を受けていたが、あえてその場では声を上げなかった。

議事は淡々と進んでいく。管理組合側は肝心な質問はうやむやに濁し、早く閉会させようとしているようにも映った。「今ではない。来年の役員改選が勝負になる」多鹿は勝負の日を予感していた。

(→後編に続く)

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。新著「ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス」が発売中。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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