「助産師を舐めるな」ーー彼女が起業した切実な理由 救えなかった"いのち"への悔しさが原動力、産後の母子をサポート、目指すは“現代の産婆”
また、こんな患者にも出会った。妊娠した喜びも束の間、末期の子宮頸がんだと発覚した女性だ。その人は以前から不正出血があったが、仕事に追われて病気の発覚が遅れてしまった。
もし、彼女たちに正しい知識を伝える環境が整っていれば――。だが、自分には病院以外の場所にいる人を救うことができない。当時を振り返る岸畑さんは、「悔しいって、原動力ですよね」とつぶやいた。

もともと岸畑さんは、「病院で経験を積んで、10年後に起業しよう」と考えていた。だが、その間にも救うことができなかったいのちが増えていく。社会のレールに乗って働く中で、自分自身の熱意が冷めていくような気もした。
「このままじゃだめだ。行動を起こそう」 。
そう思った岸畑さんは2018年、学生時代の同期や知り合いに声をかけて助産師のコミュニティを作った。すると口コミやSNSで仲間が増えていき、200人を超える大所帯になった。
その後、東京、名古屋でイベントを開催し、全国にいる助産師と対話を重ねた。見えてきたのは、病院に勤務する助産師が、若くして辞めてしまうという現実。その理由を聞くと、「過酷な労働環境がつらい」「子育てとの両立が難しい」「フルタイムじゃないと雇ってもらえない」というものが多かった。
現在、日本で助産師の国家資格を取得した65歳未満の人数は、約7万人といわれている。だが、その中で助産師として働いているのは約3万5000人。つまり、資格を持っている半数は助産師として働いていないことになる。
さらに話を聞くと、助産師たちが「もっとフレキシブルに働けたらいいのに」「助産院をつくりたいけど、開業する方法がわからない」などと考えていることがわかった。岸畑さん自身も仕事にやりがいを感じる一方で、活躍できる場が病院だけということにもったいなさを感じていた。
「多くの助産師が『こんなことをやりたい』『もっとこうすればいいのに』って、社会に向けた思いがあって。このエネルギーを実現できる組織を作れば、もっと社会は良くなるんじゃないか。そう漠然と思うようになりました」
女性向けのビジネスコンテストで躍進
岸畑さんの願いは、ひょんなところから叶うことになる。
きっかけは2018年、知り合いの中小企業診断士から紹介され、ビジネスコンテスト「LED関西(LED=Ladies' Entrepreneur Discussions)」(主催:公益財団法人大阪産業局)に出場したことだった。
大慌てで準備を始め、「最初は『ピュアな思いが世界を救うと思って』みたいな(笑)。ぼんやりとしたことしか言えなかったんです。何度も掘り下げ、思い描くプランを作っては壊す、を繰り返しながら形にしていきました」と振り返る。

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