「助産師を舐めるな」ーー彼女が起業した切実な理由 救えなかった"いのち"への悔しさが原動力、産後の母子をサポート、目指すは“現代の産婆”

2024年5月、大阪府寝屋川市で30代の母親と生後間もない赤ちゃんが意識不明の状態で見つかり、その後亡くなる事件があった。報道によると、現場の状況から母親が無理心中を図った可能性が高いという。
翌日、このニュースを見た助産師の岸畑聖月さんは、自身のブログに『「助産師を舐めるな。」という言葉が湧き出てきた日』というタイトルで、既存の社会システムで救えないいのちがあることに強い憤りと悔しさをぶつけた。

2020年以降、妊産婦死亡の原因として最も多いのが「自殺」だ。このうち産後の自殺は、ホルモンバランスや環境変化が原因で起きる「産後うつ」が大きな要因と考えられている。
この現状を変えようと、岸畑さんは病院に勤務しながら、助産師によるオンライン相談サービスを提供する会社「With Midwife」を設立した。
なぜ彼女は助産師でありながら、経営者としても奮闘しているのだろうか?
女性特有の悩みや不安に寄り添いたい
岸畑さんは京都大学大学院医学研究科を卒業後、2016年に大阪市内の産婦人科で働き始めた。
病院に勤めて3年が経ったころ、かつて中絶手術を担当した患者と再会した。その女性は、岸畑さんの顔を見るなりワッと泣き出し、「復職先の産業医に中絶について心ない言葉を言われ、罪悪感に襲われている」と心情を吐露した。話を聞いた岸畑さんは「これは、なんとかしなくちゃ」と思ったという。
「おそらく、その産業医の方は女性の健康領域の専門ではなかったんだと思います。2016年に女性活躍推進法が施行され、フルタイムで働きながら妊娠、出産、不妊治療をする人が増えました。そのような時代にもかかわらず、企業に携わる医療者の中に、知識をアップデートしていない人がいるのは大きな課題だと感じました」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら