だが、敗者は騙された者ばかりではない。借入金で購入された資産が高騰後に急落すると、さらに多くの敗者が生まれる。その場合、破産申告や破産申告への恐怖が伝染して、もっと多くの破産申告者を生み恐怖は増大する。そして与信が底を尽き、経済が崩壊する。
この景況感の危険な下方スパイラルには大抵フィッシングが絡んでいる。たとえば、バーナード・マドフの出資金詐欺の犠牲者たちは、非合理的な活況が終わってから、初めて気づいたのである。
医療と同様、経済学上の伝染病には迅速かつ大胆に対応する必要がある。1929年の大暴落に対する政府の対応が小規模で遅かったため、世界は30年代の大恐慌と第二次大戦にまで続く「暗黒時代」に突入してしまった。
2007~09年の金融危機は似た結果につながりかねなかったが、各国の政府と中央銀行が、適切に大量の刺激策を用意し、すぐに介入した。危機以前への回復に至ったとはまだまだ言えないものの、新たな暗黒時代とは程遠い状況に抑え込むことには成功した。
「火消し」は迅速かつ大胆に
しかし、2007~09年の危機発生時に財政・金融当局がそこまで速く、また、強く対応すべきでなかったと論ずる者もいる。危機の主因はモラル・ハザードだというのだ。リスクを負う者は、自分たちが賭けに失敗すればそれらの機関が介入して守ってくれると期待していたため、もっと大きなリスクを冒すことになった。
だが、多くのデータに支持される私たちの見解によると、価格の急速な高騰の裏には通常、フィッシングに助長された非合理的な活況がある。
金融危機における迅速な介入のニーズを認めたがらないのは、非合理的な活況に対する責任を取らず、「Phishing for Phools」で考察した現実を無視している経済学派だ。しかし、そういう姿勢は、消防署がなければ人はもっと用心するだろうから消防署を廃止すれば火災は起こらない、という考え方に似ている。
金融伝染病を放っておけば何が起こるかは、かなり前に判明した。金融システムの動揺を大きくするのは伝染病や自然の力だけではなく、金融が崩壊した際には敏速で効果的な介入が必要であることを、今回の著書では示した。金融不安が金融危機になるときには、財政・金融当局が独自に大胆な対策を講じられるようにする必要がある。暗黒時代は1回で十分だ。
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