すき家《異物混入騒動》で起きうる重大変化。ネズミやゴキブリが混入した今、もはや「ディストピア容器」を批判していられない…

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同容器が使われている店舗に行くと、トレイ以外のすべての容器がそのまま捨てることのできるものだった。下げ台はゴミ箱のことであり、「これが究極の効率化か……!」と思った。 

ネット上では「温もりが感じられない」との声も出ていたが、確かに、こうすることによって店員は食器洗いをしたり、皿の収納などをすることなく、ただ使い捨て容器に料理を詰めればいいことになる。店員の負担軽減にもなるし、洗い残しなどのミスを減らすことにもつながる。 

こうした取り組み以外にも近年すき家は、券売機やタブレットの導入を含め、DXを利用した店舗オペレーション簡略化を進めていた。これらは人手不足の解消、加えて商品提供コストの維持といった効果もあるからだ。特に牛丼チェーンの中でも(値上げはあったとはいえ)低価格路線を維持してきた同社にとって、これらの施策は不可欠だっただろう。 
 
これも偶然ではあるが、今回の「ネズミ騒動」をきっかけにこうした効率化がさらに進んでいくだろう。容器の中にネズミが入っていても気づかないぐらい従業員が忙しいのなら、従業員の負担を軽減させることが重要になる。やはり「そのまま、すき家がやろうとしていることを続ける」ことになるのだ。 
 
そう考えると、結局すき家の「ネズミ騒動」は大局的な視点から見れば、すき家がこれまで進めてきた施策が方向性としては間違っていなかった、ということを逆説的に証明したことになる。 

むしろ、その突き詰めが足りなかったからこそ起こった悲劇なのだ……と言い切ってしまうのは断定が過ぎるかもしれないが、消費者としても「温もりが感じられない」より「ネズミが入っていない」ことを選ぶのは間違いない。 

より高度な人材が必要になってくるすき家

もちろん、当然ながら、変化していくところもある。

そもそも、だ。「味噌汁にネズミが入る」なんてことはあまりにもイレギュラーというか、かなり意表を突く出来事であり、こうした突発的なアクシデントについてはどうしても機械は対応することができない。それに、効率化を求めて機械を用いたとしても、絶対にミスがないともいえない。

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したがって、DX化や効率化を進めるにしても、今回のようなことが起こらないようにするためには、ある程度作業を効率化させつつ、それがしっかりと機能しているのかを監督する人間が必要になるだろう。いわば、平常時の仕事を機械に、それで対応できないアクシデントやチェックする役が人間に……ということになるはずだ。

ただ、こうやって書くとなんだか当然の話というか、「AIに仕事を奪われる」話と同じような道筋を辿っている気もする。結局、料理の配膳や食器洗いといったローテーション的な仕事はAIが、逆にそうではないアクシデントに対応したり、AIが見落とした部分のチェックをしたり……といった部分が人間の担当だということになる。

「AIに奪われない仕事は思考力・判断力が必要とされる仕事です」なんて言葉はもう何万回と聞いているが、それと同じことがファストフード業界でも起こるかもしれない。

そう考えると、そこで働く店員についても、単にローテーション的に仕事をこなすのではなく、突発的な判断ができたり、そこでの最善策を考えたりできる人材が優位になり、今よりもよりスタッフに求められる能力が高度になっていく可能性も考えられる。

その意味でも今回の「ネズミ騒動」は、今後のファストフード業界がどのような姿になっていくのかを考える上で、なかなか面白い材料を提供してくれているといえるのである。短期的に事件の顛末を追うのも面白いが、長期的な視点で見てもなかなか興味深いのだ。

谷頭 和希 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。「東洋経済オンラインアワード2024」でMVPを受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ニセコ化するニッポン』(KADOKAWA)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

X:@impro_gashira

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