写真家・ヨシダナギ、“東京脱出”の真相 島に移住して得た心の平穏と少数民族への熱情
隣りに住む女性は、なにかと気にかけてくれる。古い新居で水漏れが起きた時には、「ヨシダさんち、水漏れしてたから元栓閉めといたよ」。見よう見まねで畑を始めたら、「鳥にやられてるから、ネット貼っといたよ」。畑にブロッコリーを植えたら、「ブロッコリーはね、もっと離さなきゃいけないんだよ。植え替えておいたからね」。
向かいに住むおじいさんも、温かい。移住してすぐの頃、1カ月の出張が入った。ヨシダナギが「申し訳ないんですけど、観葉植物を預かってくれませんか?」と頼むと、なんの躊躇もなく「いいよ」。「なんだったら、運びこむのも大変だからカギ預かろうか? 水くらい、毎日あげといてやるよ。そのほうが防犯にもなるやろ」と言ってくれた。
その頃はまだ島の文化に馴染みがなく、言葉通りに信じることができずに「いやいや、悪いんで持ってきます」と申し出を断った。移住して1年4カ月が過ぎ、互いに「これあげる」と食べ物を贈り合う関係になった今は、混じりけのない親切心だとわかる。

「写真家・ヨシダナギ」がバレた日
移住当初は人間不信が抜けきれず、自分の仕事も隠していた。それがある日、隣りに住む女性から「なんで言わんの!」と背中を叩かれた。なんのことかと思ったら、ほかの住民から「最近この子をよく見かけるんだけど」とスマホの画面を見せられた際、「隣りのヨシダさんだよ」と応じたところ、その住民から「ヨシダナギ」について話を聞いたという。
それをきっかけ、集落中にものすごいスピードで噂が流れてしまい、正体を隠していたことに気まずさを感じると同時に、自分の存在がバレてしまったことに警報アラームが鳴った。しかし、それは杞憂だった。その後も、出張で不在の時に畑の世話をしてくれるなど、見返りを求めない親切に変わりはない。向かいのおじいさんも、同じように写真家・ヨシダナギを受け入れた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら