鬼怒川水害「二審勝訴」でも原告に笑顔ない事情 堤防整備のあり方を問題視したが、認められず

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東京高裁判決は、「(問題の砂丘は)実態として堤防と同様の役割を果たしていたものと認めるのが相当である」と国の主張をしりぞけた。また、国が砂丘の高さや質(強度)に言及して河川区域指定により維持保全する要件を満たさないと主張した点について、「法令上の根拠はないというべきである」とばっさり否定。洪水の際に残っていた砂丘が崩れたりしていないことにも触れた。

判決を聞くため、東京高裁に向かう被災住民ら(撮影:河野博子)

堤防整備のあり方を問題視したが、認められなかった

若宮戸の溢水地点から南(下流側)に4.35km、利根川との合流地点から21kmの三坂町地先(上三坂地区)は、堤防の越水決壊が起きた現場だ。若宮戸の溢水は早朝に起きたが、上三坂の堤防が決壊したのは12時50分ころ。逃げ遅れた人たちが家のベランダから、あるいはしがみついた電柱からヘリコプターで救助された。

控訴審で住民側は、国による堤防整備や過去の水害発生状況を詳しく分析し、堤防整備のあり方に異を唱えた。その主張を要約すると以下のようになる。

1. 国は「治水経済マニュアル」に書かれている方法を用いて堤防の改修計画をたてている。そこでは、堤体内に河川水が浸透することによる決壊を防ぐため、堤防の幅が広いことを重視している。
2. 堤防整備の計画策定において、堤防の危険性や安全性の評価は、現況堤防の高さをベースに検討することが重要だ。
3. 国管理の一級河川について1992~2021年の30年間における堤防の決壊原因を整理した文書を住民側原告が検討したところ、ほとんどが越水を原因とすることがわかった。堤体内への河川水の浸透による堤防決壊の事例はなかった。
4. 水防計画では「重要水防箇所」を設定するが、鬼怒川における設定は堤防の高さをもとにして行われている。
5. 国の方法によれば、堤防が低い場所の整備が後回しになって越水に対する安全確保が図られないことになり、本末転倒した堤防整備が行われることになる。
6. 鬼怒川左岸20-21kmの上三坂地先は、堤防整備の対象となっている全区間中、堤防の高さが水をあふれさせずに流すことができる高さを下回る地点を含め、最も現況堤防高が連続して低い区間であった。
7. 堤防整備の時期・順序は、より治水安全度が大きいほかの場所が優先された。

東京高裁判決は、「本件改修計画(上三坂地区の堤防改修計画)が格別不合理であるとは認めるに足りる証拠はなく、一審被告(国)の河川管理の瑕疵があったと認めることはできない」と住民側の主張を認めなかった。

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