対策の1つは、第4の仮説「腐敗しない組織づくり」、すなわち人事異動です。悪人は、1人では悪を成し得ません。その悪をサポートする人、見逃す人が必ず周りにいるはずです。悪しきリーダーも、お手盛りの意思決定集団があるから横暴に振る舞えるのです。
社会心理学では、アーヴィング・ジャニスによる「集団思考」という現象が知られています。凝集性の高い、排除されたくないと思う集団の意思決定においては、異論を唱えるということが非常に難しく、そのために、客観的に見れば適切でない意思決定がなされてしまうというものです。
邪悪なリーダーが1人で決めるというよりも、他の人が主体的な判断を放棄してしまう。つまり、「反対意見を言って排除されたくない」といった気持ちで流されてしまうことこそが、集団や社会の良くない決定を招いてしまうのです。
執行役員や上層部が固定化すると、腐敗を招きやすくなることも指摘されています。繰り返し接しているうちに、互いへの信頼が増して、気安く密謀を巡らせやすくなるようです。
リーダーだけを代えるのではなく、上層部を定期的に入れ替えて、風通しを良くしていくほうがよいでしょう。人事権をリーダーが握ってしまうようなことには、要注意だと思います。
立ち止まって見直すことを恐れない
本書では、周りの人が権力者を監視するということを重視しています。それはもちろんですが、例えば、「今度の社長は独裁者だよね。でもそのうち代わるから放っておこう」「反対しても良いことはないから、我慢しておいた方がいい」といった感覚の組織文化では、監視は有効に働かないでしょう。
最近問題になったテレビ局や芸能界の問題も、「この業界はそういうものだ」と思いこんでいた、決して悪意のない人たちが、カルチャーを維持してしまったのだと思います。
立ち止まって見直すことを、みんなが恐れないという価値観の共有が必要でしょう。
そういう意味で、異論について真剣に向き合うべきだと考えます。まず異論や指摘が上がってきたら、事実関係の確認(つまりファクトチェック)が必要です。
正義や価値観は、相対的にそれぞれの立場があり、言い分は対立します。しかし、事実は1つです。組織としては、まずそこを確認することが大事でしょう。
世界の政治を見ても、独裁者は情報統制を行い、虚偽情報を操ります。近年はSNSがそのツールとして使われることも多くなりました。一部の独裁者だけではありません。昨年の兵庫県知事選挙で、根拠不明な主張が大量に拡散され、選挙に影響を与えたことは記憶に新しいと思います。
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