生命は存在せず「幻想」であるという奇妙な考え 既知の物理学はなぜ「生命」を説明できないのか

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物理学者で著名な知識人であるショーン・キャロルもその一人である。私の勤めるアリゾナ州立大学で盛況を博した夜間講演、その壇上でキャロルは、素粒子物理学の方程式だけで全物質の存在を説明することができ、そこにはあなたや私も含まれると論じた。

それを聞いて私はのけぞった。ノーベル賞受賞者のジャック・ショスタクも似たような考えだ。生命を定義することにこだわっていると、生命の起源は理解できないと唱えている。ショスタクいわく、生命を"定義"する何らかの特徴を詳しく見れば見るほど、生命と非生命の境界線はどんどんぼやけてくる。

子供の頃、昆虫の身体をばらばらにしてからもとの状態に戻そうとして、うまくいかなかったのを覚えている。そのときはあまりの驚きに、逆にうろたえもしなかった。

生命をその各部分に、たとえば素粒子や原子、あるいは分子に還元できないというのは、あらゆる人に染みついた考え方だ。

だがもしかしたら、エリントンやショスタクやキャロルと同じ見方を取るのが、もっとも無難なのかもしれない。

生命の各部分は生命としての特徴を備えていないのだから、生命を定義するのに神経をすり減らす必要はないという見方だ。もしそうだとしたら、生命が何をしていてどのように誕生するかを理解するには、その各部分を理解しさえすればいいということになる。

物理学が成し遂げてきたこと

理論物理学者としての研鑽を積んだ私は、生命は概念的に深遠な科学的問題ではないという考え方を叩き込まれた。現実の本質に関するもっとも根源的な概念は、空間や時間、光やエネルギーや物質といった、数多(あまた)の物理学者が研究してきたものである。

しかも物理学には、まさに意義深い成功が満ちあふれている。私たちはここ400年という短い期間で、この宇宙のからくりを深く理解するに至った。

"宇宙"という言葉の意味も定義できた。極小のスケールでは、あらゆる物質の基本構成要素についておおかた理解している。極大のスケールでは、発せられた光が私たちの望遠鏡に届くのに135億年以上もかかるような、遠方の銀河の写真を撮ることができる。

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