生命は存在せず「幻想」であるという奇妙な考え 既知の物理学はなぜ「生命」を説明できないのか

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メアリー・シェリーは1818年、わずか21歳のときに名作『フランケンシュタイン』を世に出した。執筆中に念頭にあったのは、当時の先進科学、とりわけ、私たちは魂によって生かされていて、電気を使えば死体を甦らせられるかもしれないという学説だった。

シェリーに影響を与えたのは、同時代にルイージ・ガルヴァーニがおこなった研究で、のちにその研究は甥のジョヴァンニ・アルディーニに引き継がれた。この2人は、電気刺激によって身体の一部に命を吹き込もうとした。死んだカエルの脚に電気刺激を与えることで、カエルを"踊らせ"ようとしたのだ。

シェリーはまた、かの有名なチャールズ・ダーウィンの祖父、エラズマス・ダーウィンからも刺激を受けたと伝えられている。エラズマス・ダーウィンは生物自然発生に関する文章を著し、太陽光で温められた水の中で、生きていない物質がひとりでに命を宿すと論じた。

シェリーの小説では、死んだばかりの身体の各部分に適切に電線をつないで感電させることで、その身体を甦らせることができる。主人公のヴィクター・フランケンシュタイン博士はその方法を用いて、死体から"生きた"怪物を作り出す。

その怪物に命を吹き込むというフランケンシュタイン博士の独特の発想、それを説明できそうな物理法則を書き下すには、次のように考えればいいのかもしれない。すなわち、死ぬと徐々に消散していく"生命力"を博士は発見し、その生命力がどんな物質でできていようが、その物質は電磁気と強く結びついているのだと。

生命を説明する物理とは?

フィクションの世界でフランケンシュタイン博士は、これを含め奇妙な性質の数々を発見したが、この現実の宇宙に存在する物質もまた多くの奇妙な性質を備えている。この宇宙は、理解が進むにつれて奇妙に見えてくる(もっと言うと、理解したと思えば思うほどますます奇妙に見えてくる)。

フランケンシュタイン博士は、何らかの首尾一貫した物理に基づいて生命を説明した、そう受け止めることもできるだろう。その物理が何であれ、この現実の宇宙を記述する物理とはたまたま違っていたというだけだ。

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