認知症予防効果が期待される「ダイエット薬」 認知症、呼吸器、循環器病を予防する効果も?

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GLP-1の受容体は、インスリンを作る膵臓だけでなく、腎臓、肺、心臓、血管内皮細胞、脳の視床下部、神経細胞、神経細胞を取り囲むグリア細胞などさまざまな細胞や臓器に存在する。GLP-1はインスリン分泌を増加させるだけでなく、膵臓や脂肪組織において炎症を鎮め、炎症によりインスリンが効きにくくなった状態を改善することで血糖値の低下に寄与している。

単にインスリン分泌を促しているから、ではないのだ。GLP-1は肝臓、大動脈や静脈内皮細胞を含む血管系、脳、腎臓、肺、精巣、皮膚に対しても抗炎症作用を示し、これにより非アルコール性脂肪肝炎、動脈硬化、神経変性疾患、糖尿病性腎症、喘息、乾癬など慢性的な炎症が原因となっているさまざまな病気に効く可能性がある。

認知症は血管の炎症による動脈硬化で血流が低下する、また神経細胞やグリア細胞の炎症で細胞が死ぬことで引き起こされている。GLP-1作動薬は、これまでのアミロイドβを除去しようとするアルツハイマー病治療薬とはまったく別のメカニズムで、神経の炎症を抑えてアミロイドβそのものが生成されないようにする効果のある可能性があるとの研究結果もある。

アルツハイマー型認知症の予防薬としては高価なモノクローナル抗体薬が存在する。ただし、治療は長期にわたり、かつ高額だ。GLP-1作動薬での認知症予防効果が明らかとなれば、より安価なアルツハイマー型認知症の予防薬となる可能性がある。

GLP-1作動薬をどう使うべきか

アメリカでは、更年期や、向精神薬による体重増加をGLP-1作動薬で抑えられるのかの研究が始まっている。更年期の体重コントロールはGLP-1作動薬にエストロゲン補充を併用するほうが効果的であることがわかっており、肥満にともなうのぼせやほてりの悪化を防ぐ効果が報告されている。向精神薬による体重増加は深刻で、肥満とうつ病は双方向性に互いを悪化させることが知られている。うつ病を治療する薬で太ってしまったら意味がない。逆に、GLP-1作動薬で減量するだけでうつ病が軽快する可能性すらある。

「適応外使用はよくない」と思考停止することなく。さまざまな疾病の予防や治療に役立てることで、これまでとまったく異なる治療パラダイムが広がることになる。やがては、血圧やコレステロールを下げる薬ではなく、GLP-1作動薬で内臓脂肪をコントロールし、メタボ疾患を治療するのが主流となるかもしれない。

久住 英二 立川パークスクリニック院長

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科専門医、血液専門医であり、旅行医学やワクチンに関する造詣が深い。国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修ののち、臍帯血移植など血液がんの治療に従事。血液内科医としての経験から感染症やワクチンにも詳しく、常に最新情報を集め、海外での感染症にも詳しい。2024年12月に立川高島屋SC10階に内科、小児科、皮膚科の複合クリニック「立川パークスクリニック」を開業した。

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