聞けば、入院中から痛みはあったものの、「がんだから痛くて当然だろう」とあきらめており、次第に「どうせ生きられる時間は限られているんだから」と、どこか投げやりな姿勢にもなっていたようです。
筆者はAさんに、医療用麻薬は適切に使えば安全で、かつ効果的に痛みを取れることが実証されている“事実”を伝えました。
麻薬という言葉のイメージから依存症を心配される人もいますが、病気などが理由で痛みがある人が使用する場合は、正しく使用すれば依存症にならず、寿命を縮めることもありません。
「痛みが和らげば、今より快適に過ごせる」と伝えても懐疑的だったAさんですが、子どもたちの後押しもあって、医療用麻薬を使うことに渋々同意してくれました。
すると、薬を使い始めると痛みがぐっと和らぎ、寝たきり状態だったのが、座って食事ができるようになりました。そこで口から出た言葉が、冒頭の「こんなにラクになるなんて」だったのです。
その後、Aさんの痛みの強さに合わせて薬の量を増やしたところ、今度は自分で立って料理ができるまで体を動かせるようになり、Aさんの表情はそれまでとは比べものにならないほど明るくなりました。
痛みは寿命を縮める一因に
がんという病は多かれ少なかれ、痛みや呼吸の苦しさといった症状が表れます。
なかでも身体的な痛みは大きなストレスになるだけでなく、体を消耗させることにもつながるので、それが寿命を縮める一因になることもあります。加えて、痛みのために日常生活もままならないため、いろいろな行動をセーブするようになり、さらに追い詰められてしまいます。
反対に、医療用麻薬をうまく利用して、痛みと闘う時間を少しでも減らせられれば、QOL(生活の質)を上げることにもつながりますし、それが寿命を延ばすことにもなります。
また、がんの種類や進行度、初発か再発かといったことでも大きく変わりますが、先行きに対する不安、絶望、憤りといったさまざまな精神的な苦痛に心が支配されてしまうことも少なくありません。
そこに、強い痛みが持続するという苦痛が加わると、1日中痛みのことばかり考えてしまうようになり、精神的な苦痛をさらに強めてしまいます。
その悪影響のループを断つために必要なのが痛みを取るという治療で、現代の医療で考えうるもっとも有効な方法が、医療用麻薬なのです。
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