そうなった場合、中国の積極的投資により値下げ競争が激しさを増している成熟プロセスではさらに悩みが増すことになる。アメリカでの半導体生産がもたらすコストと関税率の水準を考慮し、また発注元であるアメリカ企業の要望も踏まえつつ、アメリカでの工場建設を検討することになるかもしれない。なお、UMCは2024年12月時点ではアメリカでの工場建設計画はないとコメントしている。
TSMCは影響軽微だがアメリカ工場加速か
他方、先端プロセスを牛耳っているTSMCはどうか。高関税がTSMCに与える影響は相対的に軽微だとの声も大きい。AIの普及で需要拡大が見込まれる先端ロジックIC市場においてTSMCは9割のシェアを握っているため、関税によるコスト増を販売価格に転嫁しやすいとみられているからだ。とはいえ、価格があまりに上昇すれば、先端ロジックICに対する需要が落ちる恐れはある。
また、価格転嫁がしやすいとしても、アメリカでのさらなる保護主義の高まりを抑えるため、TSMCがアメリカでの工場建設計画を加速させるかもしれないとの観測も浮上している。
TSMCは2024年10~12月期にアリゾナで4ナノ製品の量産を開始した。それに続き、TSMCはアリゾナで3ナノ、さらには2ナノや1.6ナノの量産を目指すとの方針を明らかにしている。台湾紙の報道では、それぞれ2028年、2030年頃に始まるとみられている。
トランプ政権としては、できる限り早く最先端半導体のアメリカ生産を拡大させたいだろう。ただ、いくら急かされても、台湾ほど研究開発体制やサプライヤーが充実していないアメリカでいきなり最先端製品の工場を建設することは難しい。
TSMCは2022年12月に台湾で3ナノ製品の量産を開始したところであり、2ナノ製品の量産に入るのも今年ではないかと目されている。台湾での量産が軌道に乗ったものから、可能な範囲でアメリカ工場への技術移転を急ぐというのがありうるシナリオだろう。
ただし、トランプ氏が「CHIPS・科学法」に基づく補助金支給を取りやめた場合には、対米投資コストは高まらざるをえない。バイデン政権はTSMCに最大66億ドルの補助金を支給すると発表したが、2025年2月時点でTSMCが受け取った額は15億ドルにとどまる。TSMCの大口顧客であるエヌビディアやアップルなどがトランプ政権にどこまでコスト上昇を招くような施策を見直すよう説得できるかが注目される。
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